チェイスH.Q.

チェイスH.Q. (Chase H.Q.)

1988年11月にタイトーから稼働を開始したアーケード向けレースゲームです。多くのカーレースゲームが、接触するとゲームオーバーとなる敵車を巧みに避けながらコースを走り抜ける形式だったのに対し、本作は一風変わった、特定の逃走車両をパトカーで追い詰め、物理的に停車させて犯人を逮捕するというゲームシステムを採用しました。これは、同社の先行作品『フルスロットル』で培われたシステムを発展させたものです。

本作の大きな魅力の一つに、プロフェッショナルな声優陣による臨場感あふれる多数の音声セリフが挙げられます。ゲーム開始時の緊迫した指令や、プレイヤーのドライビングに対する相棒刑事の軽妙かつコミカルなリアクションなどが、ゲームプレイを盛り上げる重要な要素となっていました。

開発の背景

開発は1986年、タイトーアメリカからの対戦型ドライブゲーム制作オーダーに端を発します。当初は2Dと3Dを組み合わせた二人対戦ゲームが構想されていましたが、翌1987年には一人プレイ専用の3Dビューレースゲーム『CHASE』として形が定まっていきました。

プレイヤーが操るパトカーのデザインには、当時セガから稼働し人気を博していた『アウトラン』との競合を避けるため、ポルシェ928を思わせるスタイルが選ばれています。また、コナミのヒット作『メタルギア』の無線交信シーンにインスパイアされ、ステージ開始前の無線指令シーンがゲームに取り入れられました。ゲームのアトラクトデモで表示されるコースマップなども、『アウトラン』のものを参考にしていることが開発資料に記されています。

開発はタイトー大阪研究所が担当し、ゲームデザインは『フルスロットル』や『オペレーションサンダーボルト』を手がけた酒匂弘幸氏が務めました。BGMの作曲は、タイトーのギター演奏ロボット『弦遊』の開発に関わった縁から、ゴダイゴのギタリストである浅野孝已氏が担当。浅野氏はその後の『S.C.I.』を含むタイトーの複数タイトルでも楽曲を提供しています。酒匂氏によると、ゲーム全体の雰囲気は彼自身がファンであった刑事ドラマ『マイアミ・バイス』をモチーフにしており、主人公が白人と黒人のコンビである点、アメリカの都市や郊外を思わせる風景、そして自車がスーパーカーであることなどにその影響が見て取れます。

ゲームの進行

プレイヤーは特捜班の警察官となり、覆面パトカーを駆って逃走する犯罪者を追跡し、逮捕することを目指します。ゲームは全5ステージで構成されており、各ステージの開始時には司令室のナンシーから緊急連絡が入り、追跡対象の犯人の情報やターゲット車の特徴が伝えられます。

操作は、アーケード筐体に備え付けられたステアリングハンドル、アクセルペダル、ブレーキペダル、そしてLO/HIの二段階シフトレバーで行います。シフトレバーのグリップにあるボタンを押すとニトロが一定時間稼働し、瞬間的な加速を得られます。ニトロの使用回数は各ステージごとに定められており、使い切っても次のステージやコンティニュー時に補充されます。

ゲームはまず、制限時間内にターゲット車に追いつく「追跡フェーズ」から始まります。画面右端のレーダーや右上に表示される『DISTANCE』で、自車とターゲット車の距離や位置関係を把握できます。公道を走る一般車両を追い越すと得点が得られますが、衝突すると減速して一時的に操作不能となり、追い越し得点の素点がリセットされてしまいます。また、道路外の障害物に接触するとスピンしたり、最悪の場合は停車して画面中央に戻されるまで動けなくなることもあります。

各ステージには途中で分岐点があり、指示された方向へ進まないとターゲット車に大きく引き離される危険があります。特定のステージでは、特捜本部のヘリコプターが上空から飛来し、分岐点の手前で進むべき方向を示唆してくれます。

ターゲット車に十分接近すると、「逃走車 発見」と表示され、制限時間が最大値まで回復。同時に画面左端にダメージゲージが表示されます。ここからが「逮捕フェーズ」となり、ターゲット車に体当たりを繰り返してダメージを与えていきます。体当たりの仕方によっては大ダメージを与えたり、連続でダメージを与えることも可能です。ダメージはゲージに蓄積され、ゲージが満タンになりターゲット車を走行不能にすれば犯人逮捕となり、ステージクリアとなります。体当たりが成功するごとに得点が入りますが、ステージ内でコンティニューした場合は獲得点数が大きく低下します。

制限時間内にターゲット車に追いつけない、あるいは発見後に逮捕できなかった場合、その場でパトカーが急停車し、コンティニューするかどうかの選択を迫られます。10カウント以内にコインを投入してコンティニューすれば、停車した場所からゲームを再開できますが、その間もターゲット車は逃走を続けるため、素早く再開しないと距離を離されてしまいます。また、ターゲット車に与えていたダメージはリセットされます。カウントがゼロになるまでコンティニューしないと、犯人が検問を突破するシーンが表示されてゲームオーバーとなります。なお、本作は『フルスロットル』のシステムを多く引き継いでいるため、クラッシュ後の操作に関する一部のバグも共通しています。

家庭用移植と評価

『チェイスH.Q.』は、その人気から多くの家庭用ゲーム機に移植されました。移植版の多くは『タイトー チェイスH.Q.』という正式タイトルでリリースされています。

アーケード版は、当時のゲーム雑誌『ゲーメスト』の読者投票企画「第3回ゲーメスト大賞」で、年間ヒットゲームの10位にランクインするなど高い評価を得ました。家庭用では、PCエンジン版が特に評価が高く、『ファミコン通信』のクロスレビューでシルバー殿堂入りを果たし、『PC Engine FAN』の読者投票では、PCエンジン全ソフトの中でも上位に位置する高得点を獲得しています。一方で、ファミコン版やゲームギア版、そしてグラフィックなどが刷新されたメガドライブ版『スーパーH.Q.』は、アーケード版と比較して評価が分かれる傾向にありました。特に『スーパーH.Q.』は、アーケード版の特徴であった音声演出のカットや、走行感・クラッシュ時の爽快感が失われている点が否定的に評価されることもありました。

関連作品

『チェイスH.Q.』のゲームシステムを継承した続編として、1989年には『S.C.I.』、1993年には『スーパーチェイスクリミナルターミネーション』、そして2006年には『チェイスH.Q.2』が登場しています。また、本作の主人公キャラクターたちを操作する2Dアクションゲーム『クライムシティ』（1989年）や、コミカルなアレンジを加えたキャラクターが登場するクイズゲーム『クイズH.Q.』（1990年）といった派生作品も制作されました。

本作は、ただ速く走るだけでなく、ターゲットを追い詰め、体当たりで逮捕するという独自のコンセプトと、それを盛り上げる演出によって、当時のゲームセンターで多くのプレイヤーを熱狂させたドライブゲームの金字塔と言えるでしょう。

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