チェロとコントラバスのための二重奏曲 (ロッシーニ)

ジョアキーノ・ロッシーニが1824年に作曲した《チェロとコントラバスのための二重奏曲》ニ長調（Duetto per Violoncello e Contrabasso）は、その楽器編成の珍しさから注目される作品である。チェロとコントラバスという、いずれも低音域を主に担う弦楽器のみによる二重奏は、当時のレパートリーとしては極めて稀であった。

この作品は、作曲家がパリで活躍していた時期に、ロンドンの有力な銀行家デイヴィッド・サロモンズと関係の深いフィリップ・ジョセフという人物のために書かれた。ジョセフはアマチュアのコントラバス奏者であり、名手として知られたドメニコ・ドラゴネッティに師事していた。作品はサロモンズ邸で私的に初演され、その際、依頼主であるジョセフがコントラバスを担当し、彼の師であるドラゴネッティがチェロを演奏したという記録が残っている。ドラゴネッティはコントラバス奏者として有名だったが、チェロも巧みに演奏したと言われている。

初演後、この二重奏曲の楽譜は長く世に出ることなく、忘れられた状態にあった。演奏機会も出版の機会も一切なく、そのままの状態で時が流れたのである。しかし、作品が書かれてから140年以上を経た1968年、サロモンズ家の遺品の中から偶然発見されたことで、その存在が再び明らかになった。発見された楽譜は競売にかけられ、翌1969年になってようやく初めて出版され、多くの演奏家や聴衆がこのユニークな作品を知る機会を得ることになったのである。

楽曲は全3楽章で構成されており、それぞれの楽章でチェロとコントラバスという特異な編成の可能性が探られている。

第1楽章：Allegro
ニ長調、4分の4拍子による二部形式。二つの楽器は時に同じ旋律を奏で、時に応え合うように、活発な対話形式で進んでいく。特に、軽快な主題に基づく二つの楽器の掛け合いがこの楽章の大きな特徴となっている。後半部では、最初の主題が再現されるが、調性などが変化している。

第2楽章：Andante mosso
変ロ長調、4分の3拍子による三部形式。比較的落ち着いたテンポで始まり、チェロとコントラバスが順に主要な主題を提示する。中間部はト短調となり、異なる雰囲気を見せる。第三部では、冒頭の主題がチェロによって簡潔に回想され、最後は中間部で登場した終結句が再び現れて楽章が締めくくられる。

* 第3楽章：Allegro
ニ長調、4分の3拍子によるコーダを伴う三部形式のフィナーレ。推進力のある楽章で、コントラバスによる3度上昇を繰り返す特徴的なリズムに乗って、チェロが明るく軽快な主題を提示する。中間部はコントラバスが主題を模倣することで始まり、調性もイ長調に変化する。再現部の後には、中間部の終結句を発展させた華やかなコーダが続き、全曲を力強く締めくくる。

この二重奏曲は、ロッシーニの作品としてはオペラに比べると知名度は低いが、その巧妙な書法と魅力的な旋律は、彼の器楽作品における重要な位置を占めている。低音域の楽器二つだけでこれほど豊かな音楽世界を構築できることは、作曲家の手腕を示すものである。アマチュア奏者のために書かれたとはいえ、演奏には高度な技術とアンサンブル能力が求められるが、演奏され、聴かれる機会が増えるにつれて、そのユニークな魅力が再認識されている。

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