チェロ協奏曲 (ドヴォルザーク)

ドヴォルザーク チェロ協奏曲 ロ短調 作品104 について

アントニン・ドヴォルザークが作曲したチェロ協奏曲ロ短調作品104は、交響曲第9番「新世界より」や弦楽四重奏曲第12番「アメリカ」と並ぶ、彼の代表的な作品の一つです。音楽愛好家の間では「ドボコン」という愛称で親しまれており、チェロ協奏曲の中でも特に重要なレパートリーとして、多くのチェリストに愛されています。ドヴォルザークは他にもピアノ協奏曲やヴァイオリン協奏曲を作曲していますが、「ドボコン」という愛称は、一般的にこのチェロ協奏曲を指します。

概要

この協奏曲は、チェロ協奏曲というジャンルにおける最高傑作の一つと評されており、その美しい旋律とチェロの技巧を最大限に引き出した作品です。ドヴォルザークは、この作品の他にもう一曲、習作時代のチェロ協奏曲（イ長調）を残していますが、こちらは未完成のため、演奏される機会はほとんどありません。

特徴

この作品は、ドヴォルザークがアメリカ滞在を終え、故郷のチェコに帰国する直前に作曲されました。ボヘミアの音楽とアメリカの音楽（黒人霊歌やアメリカン・インディアンの音楽）が融合した、独特な作風が特徴です。芥川也寸志は、この曲を「史上類をみない混血美人」と評しました。また、親しみやすい旋律が随所に散りばめられており、聴衆を魅了します。この曲の主題が先住民インディアンや南部の黒人の歌謡から採られたという俗説がありましたが、作曲者自身が否定しており、現在では確認されていません。オーケストラの活躍も目覚ましく、特に木管楽器のソロは聴きどころです。協奏曲としての構成の確かさ、大衆性と芸術性の高度な融合は、この作品をチェロ協奏曲という枠を超えた、協奏曲ジャンル全体の傑作としています。ブラームスは、この曲を聴いて「なぜ自分がこのような協奏曲を書けなかったのか」と嘆いたという逸話も残っています。

作曲の経緯

1894年11月から翌1895年2月にかけて作曲されました。きっかけは、チェロ奏者のハヌシュ・ヴィハーンからの依頼でした。作曲後、第3楽章に大幅な修正が加えられました。これは、ドヴォルザークの個人的な事情によるものでした。ヴィハーンは初演前に、ソロパートが難しすぎると修正を提案しましたが、ドヴォルザークは受け入れず、カデンツァの追加提案には激怒しました。その結果、初演はヴィハーンではなく、レオ・スターンに委ねられることになりました。

初演

1896年3月19日、ロンドン・フィルハーモニック協会の演奏会で、レオ・スターンの独奏、ドヴォルザーク自身の指揮によって初演されました。その後、依頼者のヴィハーンがチェコでの初演を担当し、この曲はヴィハーンに献呈されました。

楽器編成

木管楽器: フルート2（2ndはピッコロ持ち替え）、オーボエ2、クラリネット（A管）2、ファゴット2
金管楽器: ホルン3、トランペット2、トロンボーン3、チューバ
打楽器: ティンパニ、トライアングル（第3楽章のみ）
弦楽器: 独奏チェロ、第1ヴァイオリン、第2ヴァイオリン、ヴィオラ、チェロ、コントラバス

楽曲構成

演奏時間は約40分です。

第1楽章: Allegro（ロ短調）

ソナタ形式で、序奏なしにクラリネットが奏でる主題が第1主題です。この旋律は、作曲者がナイアガラの滝を見た時のインスピレーションから生まれたと言われています。第2主題は、ホルンが演奏するニ長調の慰めに満ちた旋律です。独奏チェロは、第1主題をカデンツァ風に展開し、第2主題も演奏します。展開部を経て、再現部ではオーケストラが第2主題を奏で、独奏チェロがそれを受け継ぎます。最後は、ロ長調で力強く終わります。

第2楽章: Adagio ma non troppo（ト長調）

三部形式で、ドヴォルザークのメロディーメーカーとしての才能が発揮された、叙情的な楽章です。木管楽器で提示された主題を、独奏チェロが引き継ぎ、木管と独奏チェロが掛け合いで進行します。中間部は、オーケストラによる強奏で始まり、独奏チェロがドヴォルザーク自身の歌曲「一人にして」の旋律を奏でます。その後、第1主題が再現され、カデンツァ風に変奏された後、静かに終わります。

第3楽章: Allegro moderato（ロ短調～ロ長調）

ロンド形式で、ボヘミアの民俗舞曲風のリズムと、黒人霊歌風の旋律が特徴的な楽章です。ロンド主題がオーケストラで提示された後、独奏チェロが演奏します。まどろむような第1副主題、民謡風の第2副主題と美しい旋律が次々に登場します。終盤では、第1楽章の第1主題が回想され、速度を増してロ長調で全曲を閉じます。

逸話

ドヴォルザークが第2楽章で自身の歌曲「一人にして」を引用したのには、深い理由がありました。ニューヨークで作曲中に、夫人の姉であるヨセフィーナ・カウニッツ伯爵夫人が重病であるという知らせを聞いたドヴォルザークは、彼女が好んでいたこの曲を引用しました。彼女の死後、ドヴォルザークは第3楽章のコーダを大幅に拡大し、第1楽章の主題を回想させ、再び歌曲の旋律を登場させました。このことから、この曲には、若き日に想いを寄せた彼女への感謝の気持ちが込められていると考えられています。また、ヴィハーンの修正案を拒否したのも、ドヴォルザークには、この曲に特別な思い入れがあったからでした。

チェロ協奏曲 イ長調 (B.10)

1865年に作曲された習作時代のチェロ協奏曲です。チェリスト・作曲家のルデヴィト・ペール（Ludevít Peer）のために作曲されたと考えられています。ピアノスコアのみが現存しており、演奏時間は約56分です。ギュンター・ラファエルとヤルミル・ブルクハウザーによるオーケストラ編曲版があり、ブルクハウザー版がよく演奏されます。

楽曲構成

第1楽章：アンダンテ―アレグロ・マ・ノン・トロッポ（イ長調）
第2楽章：アンダンテ・カンタービレ（ヘ長調）
第3楽章：アレグロ・リソルート（イ長調）

ラファエル版、ブルクハウザー版ともに演奏時間は約33-34分です。

参考図書

作曲家別名曲解説ライブラリー6「ドヴォルザーク」（1994年　音楽之友社）ISBN 4276010462

外部リンク

* チェロ協奏曲 ロ短調 作品104の楽譜 - 国際楽譜ライブラリープロジェクト)

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