チェロ協奏曲第2番 (ショスタコーヴィチ)

ショスタコーヴィチ：チェロ協奏曲第2番 作品126

ドミートリイ・ショスタコーヴィチによって1966年に生み出された《チェロ協奏曲第2番 作品126》は、彼の円熟期から晩年に差し掛かる時期の重要な創作の一つです。この作品は、しばしば楽譜出版社や研究者によって「ト短調」あるいは「ト長調」といった調性を示す名称が付けられることもありますが、作曲家自身の自筆譜には特定の調性の記載はありません。この事実は、伝統的な調性システムにとらわれない、より自由で内省的な響きを追求した作曲家の意図を反映していると言えるでしょう。

本作は、その7年前に作曲され、世界的に評価された《チェロ協奏曲第1番 変ホ長調 作品107》に続いて書かれました。前作と同様、この分野における最高のヴィルトゥオーゾであり、ショスタコーヴィチ作品の熱心な擁護者であったムスティスラフ・ロストロポーヴィチに献呈されています。しかし、第2番が作曲された当時、ショスタコーヴィチは既に心臓病をはじめとする様々な健康問題に苦しんでいました。特に喘息の持病を抱えながら、クリミア半島のオレアンダにある保養所で作曲を進めたものの、その後さらに深刻な心臓発作に見舞われ、作品の初演直前まで長期の入院を余儀なくされたという背景があります。このように、この協奏曲は作曲家自身の病との闘いや、晩年に向かう精神的な境地と深く結びついた作品として位置づけられます。

待望の初演は、1966年9月25日という特別な日に行われました。これは、作曲者ショスタコーヴィチの60歳の誕生日を記念するコンサートとして、モスクワ音楽院の大ホールで開催されたものです。演奏は、作曲家の息子であるマクシム・ショスタコーヴィチが指揮するソヴィエト国立交響楽団によって行われ、独奏チェロは献呈者であるロストロポーヴィチが務めました。作曲家本人の誕生日という記念碑的な舞台で、献呈を受けた名チェリストが世界初演を行ったことは、この作品の歴史において特筆すべき出来事です。

この協奏曲のために指定された楽器編成は、晩年のショスタコーヴィチの管弦楽法の特徴をよく示しています。独奏チェロに加え、オーケストラはピッコロ1、フルート1、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット3（うち1人はコントラファゴットに持ち替え）、ホルン2、そして非常に多彩な打楽器群（ティンパニ、大太鼓、小太鼓、タンブリン、ウッドブロック、トムトム、鞭、シロフォン）、さらにハープ2、弦五部という構成です。特に注目されるのは、ティンパニを除く主要な金管楽器であるトランペット、トロンボーン、チューバを含んでいない点です。この編成は、色彩豊かな打楽器の効果を最大限に引き出しながら、重厚で輝かしい金管の響きを排除することで、作品全体に漂うどこか影のある、内省的で哲学的な雰囲気を強調する役割を果たしています。

楽曲は全3楽章で構成されており、演奏時間は約35分を要します。この作品の構成上で特に珍しいのは、第1楽章が緩徐楽章（ラルゴ）で開始される点です。これは、ショスタコーヴィチの中期の作品、例えば《交響曲第6番 ロ短調 作品54》や《ピアノ五重奏曲 ト短調 作品57》などでも見られた特徴であり、作品の冒頭から聴き手を内面の深い世界へと誘い込む、作曲家ならではの手法と言えます。

各楽章の概要は以下の通りです。

第1楽章：ラルゴ
4分の4拍子で書かれた複合三部形式。先行する第1番の第1楽章が持つ明快で推進力のある性格とは対照的に、この楽章は極めて瞑想的で内省的な性格が強く打ち出されています。悲痛さや静かな諦念といった感情が込められ、聴く者の心に深く静かに染み入るような音楽が展開されます。調性的な中心はト短調に置かれていますが、全体としては特定の調に厳密に縛られることなく、無調的な響きを多用しています。

第2楽章：アレグレット
2分の2拍子、ソナタ形式。独奏チェロによる短くも印象的な序奏から始まります。この序奏部には、後の第3楽章冒頭に現れる劇的なファンファーレの重要なモティーフが暗示されており、楽章間の有機的な繋がりを示唆しています。全体としては活発なテンポで進みますが、どこか皮肉や諧謔味を含んだ、ショスタコーヴィチらしい両義的な響きを湛えています。

* 第3楽章：アレグレット
2分の2拍子。この終楽章は、第2楽章の終結部から切れ目なく連続して演奏される「アタッカ」の形式をとります。楽章が開始されると、第2楽章で活躍したホルンが、聴き手の意表を突くような大胆で力強いファンファーレを奏でます。このファンファーレが一種の合図となり、音楽は急速に展開。時に激しく、時に立ち止まって内省的な表情を垣間見せながら、全体を締めくくります。

《チェロ協奏曲第2番》は、第1番のような技巧的な華やかさよりも、人間の内面に深く分け入る哲学的な探求に重きが置かれた作品です。作曲家自身の苦難の経験や晩年の境地が色濃く反映されたこの作品は、聴き手に深い感動と問いかけを与える傑作として、今日でも高く評価されています。

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