チェンバロ協奏曲

チェンバロ協奏曲とは

チェンバロ協奏曲は、チェンバロを独奏楽器としてオーケストラなど合奏体を伴う楽曲形式です。特にバロック音楽から古典派音楽の時代にかけて、数多くの作品が作曲され、このジャンルの黄金期を迎えました。

歴史的変遷

バロック期から古典派

18世紀は、チェンバロ協奏曲が最も盛んに作曲された時代です。この時期の重要な作曲家としては、ヨハン・ゼバスティアン・バッハが挙げられます。彼はチェンバロ独奏のための協奏曲を8曲（うち1曲は断片のみ）作曲したほか、複数のチェンバロ（2台、3台、4台）と管弦楽のための協奏曲も手掛けています。彼の作品は、チェンバロのヴィルトゥオジティと合奏体との対話を巧みに融合させた傑作として知られています。

ただし、J.S.バッハの作品には、しばしば「協奏曲」と題されながらもオーケストラ伴奏を伴わない独奏曲も存在することに注意が必要です。例えば有名な『イタリア協奏曲』は、単独のチェンバロで演奏される作品であり、厳密にはここで言うチェンバロ協奏曲には分類されません。

J.S.バッハ以外にも、その息子であるカール・フィリップ・エマヌエル・バッハは68曲ものチェンバロ協奏曲を残しており、このジャンルにおける多作家として知られています。また、ヴィルヘルム・フリーデマン・バッハやヨハン・クリスティアン・バッハもこの分野で作品を残しています。マティアス・ゲオルク・モンなども初期の作品を書いています。

古典派初期には、フランツ・ヨーゼフ・ハイドンが多くのチェンバロ協奏曲（真偽不明な作品を含め13曲、チェンバロが活躍するディヴェルティメントを含めると21曲とされる）を作曲しました。ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトも初期に3つのチェンバロ協奏曲 K.107を作曲していますが、これらは他の作曲家（J.C.バッハ）のソナタを協奏曲形式に編曲したものであり、またチェンバロだけでなくフォルテピアノやピアノでの演奏も想定されていました。

ドメニコ・スカルラッティやルイジ・ボッケリーニ、アントニオ・ヴィヴァルディといった作曲家も、この時代のチェンバロ協奏曲に関わったと考えられていますが、その作品には未完や偽作の可能性があるものも含まれています。

ロマン派以降の衰退

19世紀のロマン派音楽の時代に入ると、ピアノが鍵盤楽器の主流となり、チェンバロはその地位を失いました。これに伴い、チェンバロ協奏曲もほとんど作曲されなくなります。

20世紀以降の復興

20世紀に入り、古楽器復興の動きの中でチェンバロが再評価されると、再びチェンバロのための新たな作品が書かれるようになります。特に近代・現代の作曲家によって、その独特な音色や表現力を活かした協奏曲が生まれました。

この時代を代表する作品としては、マヌエル・デ・ファリャのクラヴサン、フルート、オーボエ、クラリネット、ヴァイオリンとチェロのための協奏曲や、フランシス・プーランクの『田園のコンセール』が挙げられます。これらはチェンバロの復興を象徴する作品と言えるでしょう。その他にも、ダリユス・ミヨー、フランク・マルタン、ウォルター・リー、クインシー・ポーター、エリオット・カーター、ヤニス・クセナキス、ヘンリク・グレツキ、マイケル・ナイマンといった作曲家が、20世紀にチェンバロ（あるいはハープシコード、クラヴサン）を独奏楽器とする協奏曲やそれに類する作品を生み出しています。

現代の作品

21世紀に入っても、このジャンルの創作は続いています。クシシュトフ・クニッテル、ブリス・ポゼ、ペテル・マハイジックなどが新たなチェンバロ協奏曲を作曲しており、現代音楽におけるチェンバロの可能性を探求しています。

このように、チェンバロ協奏曲は歴史の中で栄枯盛衰を経験しながらも、各時代の作曲家によってその魅力が追求され続けているジャンルと言えます。

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