チベット動乱

チベット動乱の概要

チベット動乱は、1956年に勃発し1959年に頂点に達した、チベット人による中国政府に対する大規模な独立運動です。この動乱は、中国政府がチベットにおける「民主改革」や「社会主義改造」を強行したことがきっかけとなり、アムド地方やカム地方を中心に拡大しました。中国政府はこれを「チベット反乱」と呼んでいます。

動乱の背景

1914年のシムラー協定は、中国政府が批准しなかったため、イギリスとチベットの間でのみ合意されました。これにより、チベット南部はダライ・ラマ政権が、北部・東部は中国が実効支配するという対立構造が生まれました。中国共産党が内戦に勝利し中国を掌握すると、アムド地方やカム地方は中国の支配下に入り、チベット政府は中国政府と関係のある中国人を国外追放しました。

1950年、中国人民解放軍は「西蔵和平解放」を名目にチベットに侵攻し、チャムドを占領。1951年にはチベット全土を制圧しました。

十七か条協定とチベット併合

チベット代表団は中国政府と交渉し、十七か条協定を締結しました。これによりチベットは事実上併合され、中国の主権下に置かれました。その後、チベット政府は自治を維持しようとしましたが、人民解放軍の駐留により中華人民共和国の支配下に入りました。中国政府は独立運動を分離主義として非難し、併合を正当化しました。

動乱の勃発

1955年、十七か条協定で「改革は強要しない」とされた地域を除く、アムド地方やカム地方東部で「民主改革」が開始され、チベット人の反発が高まりました。土地の没収や漢族の入植が進められたことも、チベット人の不満を増大させました。1956年、アムド、カム地方で抗中蜂起が勃発し、チベット動乱が始まりました。

ゲリラ活動と弾圧

1957年には、チベット高原北半部出身者による抗中ゲリラ組織チュシ・ガンドゥクが結成され、アメリカCIAの支援を受けてゲリラ活動を展開しました。中国軍はゲリラ鎮圧のため大規模な軍事作戦を展開し、多数のチベット人を殺害・逮捕しました。1957年末には鎮圧に成功したものの、1958年には再び蜂起が起こり、中国軍によって鎮圧されました。青海省では、10万人以上のチベット人が虐殺されたという報告もあります。

1959年のチベット蜂起とダライ・ラマ亡命

1959年、ラサで中国政府がダライ・ラマ14世を観劇に招待した際、チベット人が拉致を恐れて宮殿を包囲しました。これがきっかけとなり、ラサで大規模な蜂起が起こりました。中国人民解放軍は市民を武力で鎮圧し、多くの犠牲者が出ました。ダライ・ラマ14世はインドへ亡命し、チベット亡命政府を樹立しました。

動乱後の状況

1960年代には、中国がチベット南半部の支配を確立しました。1966年にはチベット自治区が発足しましたが、文化大革命の影響で宗教や信仰が弾圧されました。1970年代にはアメリカのCIAによるチュシ・ガンドゥクへの支援が打ち切られ、ゲリラ活動は終息しました。

犠牲者数

チベット動乱によるチベット人の犠牲者数については諸説あり、120万人にのぼるとする説もあります。中国政府は、これらの主張を否定しています。国際司法委員会やアムネスティ・インターナショナルなどの国際機関は、中国政府の弾圧を告発しています。また、スペインの裁判所ではチベット人ジェノサイド事件として中国政府高官が訴追されています。

中国の文献に登場する数値

中国の文献には、チベット動乱における地方ごとの個別事例として、兵士や一般民衆に対して相当規模の殺害が生じていたことを述べる記録が多数出版・公刊されています。

カム地方: 20,000人殲滅、20,000人逮捕。
カム地方: 5,500人を殲滅。
青海省: 110,000人を殲滅。
青海省: 遊牧民50,000人を逮捕。うち23,260人が死亡
中央チベット: 93,000人を殲滅

チベット動乱を描いた映画

『セブン・イヤーズ・イン・チベット』
『クンドゥン』

まとめ

チベット動乱は、中国政府によるチベット支配に対するチベット人の抵抗運動であり、多くの犠牲者を出しました。この動乱は、チベットの歴史において重要な転換点であり、現在もチベット問題の根底にある問題です。

参考文献

チベット亡命政府. “チベットの歴史”.
鄧礼峰 (1989). 新中国軍事活動紀実：一九四九 − 一九五九. 中共党史資料出版社
毛里和子『周縁からの中国 民族問題と国家』東京大学出版会、1998年9月。

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