チャカアン・コア

チャカアン・コア： チンギス・カンに仕えた悲劇の千人隊長

チャカアン・コア（生没年不詳）は、モンゴル帝国建国期にチンギス・カンに仕えた千人隊長の一人です。彼はネグス氏の出身で、『元朝秘史』などの史料にその名が記されています。

ネグス氏とタイチウト氏

チャカアン・コアの出自であるネグス氏は、チンギス・カンの遠祖カイドゥ・カンの子孫に連なる氏族でした。元々はタイチウト氏と同祖でしたが、タイチウト氏が有力になるにつれて、ネグス氏はその傘下に入るようになりました。

テムジンへの鞍替えと悲劇

12世紀末、テムジン（後のチンギス・カン）率いるキヤト氏とタイチウト氏の主導権争いが激化すると、チャカアン・コアは長年隷属してきたタイチウト氏を見限り、テムジンの麾下に入ることを決意します。しかし、この行動はタイチウト氏の恨みを買うこととなります。

テムジンとジャムカがダラン・バルジュトで激突した十三翼の戦いにおいて、テムジン軍は敗北。敗走するネグス氏はジャムカ軍に捕らえられ、チャカアン・コアは処刑されるという悲劇に見舞われました。ネグス氏が苛烈な仕打ちを受けたのは、タイチウト氏を裏切ったためと推測されています。

遺志を継ぐ息子ナリン・トオリル

1206年、チンギス・カンはモンゴル帝国を建国し、配下の遊牧民を95の千人隊に再編成しました。この時、チャカアン・コアの息子のナリン・トオリルが隊長となり、ネグス千人隊が新設されます。『元朝秘史』の功臣表では、チャカアン・コアは25位に列せられています。

チンギス・カンは、建国直後の論功行賞でチャカアン・コアの遺族を呼び、恩給を与えようとしました。これに対し、ナリン・トオリルは四散したネグス氏の民を結集したいと願い出て、チンギス・カンはこれを許しました。ナリン・トオリルは後にクビライ・ノヤンとともにチンギス・カンの庶子コルゲンの王傅となったと伝えられています。

チャカアン・コアは、タイチウト氏からテムジンへ鞍替えしたことで悲劇的な最期を遂げましたが、その遺志は息子のナリン・トオリルに受け継がれ、ネグス氏の再興に尽力することになったのです。


参考文献
志茂碩敏『モンゴル帝国史研究 正篇』東京大学出版会、2013年
村上正二訳注『モンゴル秘史 1巻』平凡社、1970年
村上正二訳注『モンゴル秘史 2巻』平凡社、1972年
村上正二訳注『モンゴル秘史 3巻』平凡社、1976年

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