チャトラジ

チャトラジ：古代インド発祥の4人制ボードゲーム

チャトラジ（chaturaji、別名：チョーパート choupat）は、4人で行うボードゲームで、チェスと類似した戦略性を持つゲームです。「4人の王」を意味するこのゲームは、1030年頃、ビールーニーの著作で詳細に記述されたことで知られています。元々はサイコロを使用し、運の要素が強いゲームでしたが、19世紀末頃までサイコロを使用しない変種もインドで楽しまれていました。

歴史：古代からの謎と現代チェスの起源論争

古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』には、チャトラジと思われるゲームの記述がありますが、それが本当にチャトラジと類似したゲームだったのか、あるいはパチーシのようなレースゲームだったのかは、はっきりしていません。

18世紀末、ハイラム・コックスは、チャトラジがチャトランガに先行するゲームであり、現代チェスの祖先であるという説（コックス＝フォーブス説）を提唱しました。この説は19世紀末にダンカン・フォーブスによって発展、スチュワート・キューリンによって支持されました。しかし、1913年にH・J・R・マレーによって否定され、現代の研究者たちはマレーの説を支持する見解が主流となっています。フォーブスは、チャトラジを南北のプレーヤーが同盟し、東西のプレーヤーと対戦するゲームだと考えていましたが、現代の研究ではこの解釈は支持されていません。

ルール：駒の動きと独自の戦略

チャトラジは、図のように4色の駒を使用してプレイします。各プレーヤーは後列に4つの駒（王、象、馬、小舟）、前列に4つの歩兵を持ちます。

王: チェスのキングと同様に移動します。
象: チェスのルークと同様に移動します。
馬: チェスのナイトと同様に移動します。
小舟: シャトランジのアルフィルと同じ動きで、斜めに2マス飛び越えて移動します。これは、古代チェスのほとんどで象（現代チェスのビショップの祖先）が行っていた動きとは異なります。
歩兵: チェスのポーンと同様に移動しますが、初期配置から2マス動かすことはできません。成るルールも異なり、成るマスに到着した歩兵は、同じ列から出発する駒（王を含む）にのみ成ることができ、かつ同種の駒が捕えられた後にのみ成ることができます。

手番は盤上時計回りに巡り、各プレーヤーは2個のサイコロを振って、その出目によって動かす駒を決定します。同じ駒を2回動かすことも、異なる駒を動かすことも、1回だけ動かすことも、全く動かさなくても構いません。

ボート・トライアンフ：小舟の特殊能力

小舟が、図のように2×2マスの範囲に他の3つの小舟を囲んだ場合、「ボート・トライアンフ」と呼ばれる特殊ルールが適用され、囲まれた3つの小舟を全て捕獲することができます。

得点：王の捕獲とポイント制

チャトラジにはチェックメイトの概念はなく、王も他の駒と同じように捕獲されます。ゲームの目的は、相手の駒を捕獲してできるだけ多くの点を獲得することです。各駒には捕獲時の得点があり、自分の王を生きたまま、他の3人のプレーヤーの王を全て捕獲したプレーヤーには54点が与えられます。

参考文献

Duncan Forbes (1860), The History of Chess, W. H. Allen & Company.
Murray, H.J.R. (1913). チェスの歴史. Benjamin Press (originally published by Oxford University Press). ISBN 0-936317-01-9
Pritchard, D. B. (1994). “Chaturaji”. The Encyclopedia of Chess Variants. Games & Puzzles Publications. pp. 48–49. ISBN 0-9524142-0-1
* Pritchard, D. B. (2007). “Classical Indian four-player games”. In Beasley, John. The Classified Encyclopedia of Chess Variants. John Beasley. pp. 311–12. ISBN 978-0-9555168-0-1

チャトラジは、戦略と運、そして独特のルールが融合した、魅力的な4人制ボードゲームです。その歴史と複雑なルールは、チェス史研究においても重要な位置を占めています。

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