チャプター・スリー (アルバム)

ガトー・バルビエリ『チャプター・スリー：エミリアーノ・サパタ万歳』

『チャプター・スリー』は、アルゼンチン出身の世界的なテナーサックス奏者、ガトー・バルビエリが1974年にリリースした記念碑的なアルバムです。正式な副題は「Chapter Three: Viva Emiliano Zapata」であり、これはメキシコ革命の英雄、エミリアーノ・サパタへの敬意を表した「エミリアーノ・サパタ万歳」という意味が込められています。

本作は、バルビエリが1970年代前半に精力的に取り組んだ、自身のルーツであるラテンアメリカ音楽とジャズの融合を追求した一連の作品群、いわゆる「チャプター」シリーズの第三弾として位置づけられています。録音は1974年にニューヨークで行われ、その熱気あふれる演奏が収められており、同年、名門インパルス・レーベルから世に送り出されました。

音楽性とパーソネル

本作のサウンドは、バルビエリの情熱的なテナーサックスを核としながらも、彼のラテンアメリカ音楽への深い愛情が色濃く反映されています。彼の演奏は時に激しく、時にメランコリックであり、聴く者の魂に直接訴えかける力を持っています。

このアルバムの特筆すべき点は、参加しているミュージシャンの層の厚さと編成の豪華さです。バルビエリのテナーサックスを中心に、以下の著名なミュージシャンたちが名を連ねています。

ガトー・バルビエリ (テナーサックス)
ランディ・ブレッカー、ボブ・マッコイ、ヴィクター・パズ (トランペット、フリューゲルホルン)
バディ・モロウ (トロンボーン)
アラン・ラフ (バストロンボーン)
レイ・アロンジ、ジム・バフィントン (フレンチホルン)
ハワード・ジョンソン (チューバ、フリューゲルホルン、バスクラリネット、バリトンサックス)
セルドン・パウエル (ピッコロ、フルート、アルトフルート、アルトサックス、バリトンサックス)
エディ・マルティネス (ピアノ、エレクトリックピアノ)
ポール・メッツキ、ジョージ・デイヴィス (エレクトリックギター、ギター)
ロン・カーター (ベース、エレクトリックベース)
グラディ・テイト (ドラムス)
レイ・アルマンド、ルイス・マンガル、レイ・マンティラ、ポルティーニョ (パーカッション)

このように、強力なリズムセクションに加え、複数の管楽器奏者やパーカッション奏者が参加しており、大規模なアンサンブルが形成されています。特に、ブラスセクションとパーカッション群の存在は、作品に豊かな響きとラテン的な熱狂をもたらしており、アレンジャー兼コンダクターであるチコ・オファリルの手腕も光っています。

評価と収録曲

本作は批評家からも高い評価を得ています。音楽評論サイト『オールミュージック』のレビューにおいて、評論家のソム・ジュレク氏は本作を「素晴らしいレコーディング」と高く評価。特にバルビエリの一連の重要作品の中でも「最もジャズ・ファンに身近な存在である」と述べ、五つ星中四つ星を与えています。これは、おそらくライブ録音ならではの躍動感や、ラテンジャズというジャンルが持つ普遍的な魅力が、多くのリスナーに受け入れられたことを示唆しています。

アルバムには以下の六曲が収録されています。

1. Milonga Triste (Homero Manzi, Sebastian Piana) - 5:00
2. Lluvia Azul (Gato Barbieri) - 7:44
3. El Sublime (Gato Barbieri) - 5:51
4. La Padrida (Gato Barbieri) - 4:46
5. Cuando Vuelva a Tu Lado (What a Difference a Day Makes) (Stanley Adams, María Grever) - 5:27
6. Viva Emiliano Zapata (Gato Barbieri) - 6:06

収録曲には、バルビエリ自身のオリジナル曲が多く含まれる一方、スタンダード曲のカヴァーも収録されています。特に、タイトルトラックである「Viva Emiliano Zapata」は、作品全体のテーマ性を象徴する重要な楽曲であり、また、往年の名曲「Cuando Vuelva a Tu Lado (What a Difference a Day Makes)」のカヴァーは、バルビエリのメロディックな側面を引き出しています。

『チャプター・スリー：エミリアーノ・サパタ万歳』は、ガトー・バルビエリの「チャプター」シリーズの中でも特に人気が高く、彼の芸術性、即興演奏能力、そしてラテンアメリカ音楽への深い繋がりが凝縮された、ジャズ史における重要な作品の一つと言えるでしょう。

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