チャレンジャー巡航戦車

チャレンジャー巡航戦車Mk.VIII A30：ティーガーI撃破を夢見て

第二次世界大戦下、イギリス軍が運用した巡航戦車Mk.VIIIチャレンジャー（A30）は、35トン級の戦車として、その存在感を示しました。本車は、クロムウェル巡航戦車の車体に、強力な17ポンド砲を搭載した砲塔を組み合わせた設計が特徴です。しばしばティーガーI戦車への対抗策として開発されたと解説されますが、実際には1940年11月時点の戦車委員会による構想が端緒であり、北アフリカ戦線における長射程砲の必要性から生まれたものです。

開発と運用：理想と現実の狭間

1942年初頭、バーミンガム鉄道車輛会社が設計を担い、同年5月に試作車の製造が開始されました。最初の試作車「パイロットA」は同年8月に完成、評価試験が行われました。しかし、結果は芳しくありませんでした。クロムウェルと比較して車体が大型化し重量が増加したにもかかわらず、エンジンは変更されておらず、機動性の低下が懸念されました。さらに、17ポンド砲の大型化と重量は、砲塔の旋回を困難にしました。薄い装甲と大型のシルエットは、生存性への不安を招きました。

この評価結果を受け、チャレンジャーの実戦投入は遅延。参謀本部は制式化を承認しましたが、量産計画は200両以上に制限され、アメリカ製のシャーマン ファイアフライの大量配備も量産開始を阻みました。量産開始は1944年3月までずれ込みました。

ノルマンディー上陸作戦には車体防水対策の不備と生産数の少なさ（31両）から参加できず、実戦配備は8月からとなりました。しかし、ミーティアエンジンは十分な出力があり、重量問題も西部戦線での運用で杞憂に終わりました。101両目からは、前面に25mmの増加装甲が追加されました。

チャレンジャーは、第11機甲師団、近衛機甲師団、ポーランド第1機甲師団、チェコスロバキア独立機甲旅団などに配備されました。しかし、ファイアフライが先行配備されていたため、チャレンジャーは機動性を重視する偵察連隊（クロムウェル3両にチャレンジャー1両の構成）に配備されることが多く、部隊での評判は意外にも悪くなかったと伝えられています。計画されていた200両のうち、試作車を含め175～197両が生産されたに留まり、終戦と共に退役しました。チェコスロバキア軍では、1950年代初頭まで訓練用標的として使用されました。

構造：17ポンド砲を支える車体

17ポンド砲の搭載を可能にするため、クロムウェルの車体は6フィート（約1.8m）延長され、転輪は片側6組に増加しました。砲塔リング径は1778mmに大型化され、車体中央部も拡幅されています。

砲塔

砲塔はストサート＆ピット社製で、TOG 2重戦車の砲塔を元に設計されました。大型の17ポンド砲を搭載するため、2名の装填手を含む4名用の設計となり、重量軽減のため、クロムウェルと比較して装甲が薄くなりました（63mm）。装填手が2名なのは、砲弾の長さと車内の狭さによる砲弾配置の制約によるものです。搭載弾数は初期は28発でしたが、後に車体前部の機銃を撤去して弾薬庫を拡大し、42発に増加しました。装甲は前面63mm、側面40mm、上面20mmと、避弾経始には劣ります。主砲はQF 17ポンド砲で、装弾筒付徹甲弾を使用した場合、1000mで225mmの装甲を貫通しました。しかし、弾道が不安定で、長射程での命中精度が課題でした。生産された砲弾の多く（94%）は被帽徹甲弾であり、被帽徹甲弾使用時は136mmの貫通力でした。

車体

車体は溶接と鋲接で組み立てられ、後輪駆動です。機関室には、エンジン、変速機、燃料タンク、冷却システムが収められています。車体前部左側に操縦手、右側に弾薬庫が配置されています。装甲厚は、前面64mm、前面下部57mm、側面（上部）51mm、側面下部（二重構造）28mm、後面38mm、天井20mm、床10mmとなっています。101両目からは25mmの増加装甲が追加されました。足回りは大型転輪を追加し、重量と反動を支えています。履帯幅は380mmです。懸念された走行性はさほど悪くなく、信頼性の高さから乗員に好評でした。

派生型：A30 アヴェンジャー

チャレンジャーを基に、オープントップ型の砲塔に17ポンド砲を搭載した自走砲、A30 アヴェンジャーが開発されました。重量軽減を目指した設計ですが、生産は1945年にずれ込み、大戦には間に合いませんでした。約250両が生産され、BAOR（イギリス陸軍ライン軍団）の一部部隊に配備されました。また、重装甲のチャレンジャー「ステージII」の設計案もありましたが、中止されました。

ゲームへの登場

チャレンジャーとアヴェンジャーは、『War Thunder』、『World of Tanks』、『トータル・タンク・シミュレーター』などのゲームに登場します。

参考文献

『クロムウェル巡航戦車1942‐1950（オスプレイ・ミリタリー・シリーズ世界の戦車イラストレイテッド）』 デイヴィッド・フレッチャー ／リチャード・C. ハーレイ／ピーター・サースン：著、 篠原比佐人：翻訳　大日本絵画　2007年
『グランドパワー　2008年10月号「砂漠戦の教訓から生まれた火力強化型巡航戦車 A30チャレンジャー」』古是三春：著　ガリレオ出版　2008年

関連項目

クロムウェル巡航戦車
アヴェンジャー対戦車自走砲

もう一度検索