ツィスライタニエン

ツィスライタニエン：オーストリア＝ハンガリー帝国の多様な顔

オーストリア＝ハンガリー帝国（二重帝国）は、1867年のアウスグライヒ（妥協）によって成立した独特の国家でした。その構成要素の一つが、ツィスライタニエンです。ツィスライタニエンとは、ハンガリー王冠領を除く帝国領土を指す、政治家や官僚の間で非公式に使われた呼称です。直訳すると「ライタ川よりこちら側」を意味しますが、実際にはライタ川を境にしていない地域も含まれており、地理的な正確性には欠けています。

複雑な政治構造

ツィスライタニエンの公式名称は「帝国議会において代表される諸王国および諸邦」でした。これは、ウィーンに設置された帝国議会（Reichsrat）が、ツィスライタニエンの共通の立法府であったことを示しています。1867年以降、ハンガリー王冠領からの代表は帝国議会に送られなくなりました。

ツィスライタニエンは、様々な歴史的地域から構成されていました。王国、大公国、公国、辺境伯領、伯爵領など、多様な領土形態が存在し、それぞれの地域が独自の歴史と政治的・法的特性を持っていました。これらの地域は単なる行政区分ではなく、「歴史的政治的実体」として認識されていました。

地方行政と中央政府

各地域には地方議会であるラントタークがあり、地域特有の法律を制定していました。しかし、普遍的で平等な参政権はなく、特権と制限された特権が混在する複雑な選挙制度が採用されていました。ラントタークの執行委員会はランデスアウスカスと呼ばれ、ランデスハウプトマンがその長を務めていました。

一方、中央政府は皇帝フランツ・ヨーゼフ1世とオーストリア首相を頂点とする帝国政府でした。各地域には、皇帝の代表であるシュタットホルダー（または少数の地域ではランデスプレンティデント）が置かれ、中央政府の政策を執行していました。

国家の象徴と名称変更

ツィスライタニエン政府は、1867年以前のオーストリア帝国期と同様に、「帝国にして王国（kaiserlich-königlich/k.k.）」という呼称を用いていました。これは、オーストリア皇帝とボヘミア王の称号を示しています。1889年には、二重帝国全体を指す「帝国ならびに王国（kaiserlich und königlich/k.u.k.）」という呼称も用いられるようになりました。

1915年、ツィスライタニエンの公式名称は「オーストリア諸邦」に変更されました。これは、チェコ人の抵抗運動への対処や、長年の帝国議会での議論の結果によるものでした。名称変更に伴い、共通の国章も変更され、オーストリアの双頭の鷲だけが描かれるようになりました。しかし、この変更は戦争における効果は限定的で、1918年の帝国崩壊によって無意味なものとなりました。

ツィスライタニエンを構成した領土

ツィスライタニエンは、以下の15の王冠領から構成されていました。

王国:
ボヘミア王国
ダルマチア王国
ガリツィア・ロドメリア王国

大公国:
エンス川上オーストリア大公国
エンス川下オーストリア大公国
クラクフ大公国

公国:
ブコヴィナ公国
ケルンテン公国
カルニオラ公国
ザルツブルク公国
上下シュレージエン公国
シュタイアーマルク公国

辺境伯領:
イストリア辺境伯領
モラヴィア辺境伯領

伯爵領:
ゲルツ＝グラディスカ伯爵領
チロル伯爵領
フォアアールベルク

自由都市:
トリエステ

共同統治国:
* ボスニア・ヘルツェゴヴィナ

これらの多様な領土が、オーストリア＝ハンガリー帝国の複雑な政治構造を形成し、ツィスライタニエンという独特の地域を構成していました。 ツィスライタニエンの歴史は、多民族国家の複雑な政治と社会構造を示す重要な事例となっています。

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