ツェリェ伯

ツェリェ伯：中世スロベニアを彩った名門貴族の興亡

ツェリェ伯（Celjski grofje）は、中世後期スロベニアにおいて絶大な影響力を誇った貴族です。14世紀初頭にハプスブルク家の庇護のもとで台頭し、1341年には帝国伯家としてツェリェ伯領を統治、1436年には神聖ローマ帝国の帝国諸侯に列せられました。その隆盛と没落の歴史を紐解きます。

黎明：ザンネク城主からツェリェ伯へ

ツェリェ伯家の祖先は、12世紀以来、下シュタイアーマルク地方のサヴィニャ川沿いにあるザンネク城を拠点としていました。1123年から1130年頃の記録にその名が登場し、一族は広大な領地を所有していたヘマ・フォン・グルクの親族であった可能性も指摘されています。

1278年のマルヒフェルトの戦いでは、レオポルド・フォン・ザンネクがハプスブルク家出身の神聖ローマ皇帝ルドルフ1世を支持し、その後のハプスブルク家との関係を深めます。14世紀初頭、レオポルドはオーストリア公ルドルフ3世とケルンテン公ハインリヒ6世の対立においてハプスブルク家と同盟を結び、1308年にはハプスブルク家の家臣となりました。

レオポルドの兄弟フリデリクは、婚姻を通じて1322年にホインブルク伯家の所領であったツェリェ市の一部と下シュタイアーマルクを相続し、1333年にはツェリェ全域を獲得しました。フリデリクはオーストリア公オットーの支援を受け、ツェリェを正式に獲得。ツェリェ城（特に上ツェリェ城）に居を構えました。1341年、フリデリクは神聖ローマ皇帝ルートヴィヒ4世によってツェリェ伯に叙任され、グルク司教区のレンベルク領がツェリェ伯領となりました。

栄華：婚姻政策と領土拡大

ツェリェ伯家は、婚姻政策によって急速に勢力を拡大し、スロベニア全域に20以上の城を所有するまでになりました。シュタイアーマルク公国、ケルンテン公国、カルニオラ辺境伯領、そしてハンガリー王国領に隣接する広大な領土を獲得し、この地域で最も有力な貴族の一つとなりました。

ツェリェ伯ウルリク1世は、ハンガリー王ラヨシュ1世のダルマチア遠征や神聖ローマ皇帝カール4世の戴冠式に参加。その息子ヴィルヘルムはポーランド王カジミェシュ3世の娘アンナと結婚し、ツェリェ伯家はボスニア王家、ポーランド王家、ハンガリー王家と姻戚関係を結びました。また、バルバラ・ツェリスカを通じて、ボヘミア王家とも姻戚関係を持つことになります。

1396年のニコポリスの戦いでは、ツェリェ伯ヘルマン2世がハンガリー王ジギスムントの命を救い、その功績によりヴァラジュディン市やクロアチアの荘園、ザゴリエ伯領を授与されました。1400年頃には、ツェリェ城からルネサンス様式のスポドニ城（低地の城）へと居城を移しました。ルクセンブルク家との同盟は、1405年にヘルマン2世の娘バルバラ・ツェリスカがジギスムントと結婚したことでさらに強固なものとなり、ヘルマン2世はクロアチアとスラヴォニアのバンに任命されました。

1422年、ヘルマン2世はオルテンブルク伯家の断絶に伴い、ケルンテンのオルテンブルク伯領、シュテルンベルク伯領、カルニオラのゴットシェー領を相続しました。1433年にジギスムントが神聖ローマ皇帝となると、1436年にはツェリェ伯家は帝国諸侯に昇格し、ツェリェ、オルテンブルク、シュテルンベルク伯領は帝国の封土となり、ハプスブルク家の臣下ではなくなりました。ハプスブルク家にとってツェリェ伯家は政敵となり、相続戦争が勃発しましたが、1443年には相互相続の合意が締結されました。

ウルリク2世は、ツェリェ家の最盛期を築き上げました。セルビア公ジュラジ・ブランコヴィッチの娘カタリナと結婚し、ヨーロッパ各国の宮廷で大きな影響力を持つようになります。1439年に神聖ローマ皇帝アルブレヒト2世が死去すると、ウルリク2世は幼いラディスラウス・ポストゥムスを傀儡として、ハンガリー王国、ボヘミア王国、オーストリア公国で摂政の地位を得ようと画策しましたが、フニャディ家などの政敵との対立を招きました。1452年、神聖ローマ皇帝フリードリヒ3世はラディスラウス・ポストゥムスの身柄をウルリク2世に引き渡し、ウルリク2世はハンガリーの事実上の摂政となりました。

滅亡：暗殺と領土の喪失

1456年、政敵フニャディ・ヤーノシュが死去すると、ウルリク2世はハンガリーの提督としてその後を継ぎましたが、これがフニャディ家の陰謀を招き、同年11月9日、ウルリク2世はベオグラードでフニャディ・ラースローの部下に暗殺されました。

ウルリク2世の死によってツェリェ伯家の男系は断絶し、相続戦争の後、相続協定に基づいてすべての領土と財産がフリードリヒ3世に引き渡されました。

影響と遺産

ツェリェ伯家の滅亡は、バルカン半島北西部のキリスト教諸国の権力構造を崩壊させ、オスマン帝国によるバルカン半島侵攻に影響を与えました。ツェリェ伯家の紋章は、ユーゴスラビア王国の国章やスロベニアの国章にも使用されています。スロベニアの国章に彼らの残した功績を見ることができます。

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