ツクシガモ

ツクシガモ

カモ目カモ科に属するツクシガモ（学名：Tadorna tadorna）は、ユーラシア大陸の温帯域に広く生息する、比較的大型のカモです。日本には主に冬鳥として少数が飛来します。和名の「ツクシガモ」は、日本の主な渡来地であった九州北部の旧称「筑紫」に由来するとされています。

形態

ツクシガモは体長が58〜67cm、翼を広げると110〜133cmほどになり、一般的に知られるマガモよりも大きく、カモとガンの中間のようなサイズ感です。くちばしは鮮やかな赤色をしています。頭部から首にかけては光沢のある緑黒色で、この色は肩羽や腹部の中央にも見られます。胸には太く白い輪状の模様があり、そのすぐ後ろには褐色系の輪状の模様が続きます。翼と尾羽の先端は黒く、脚は鈍い赤橙色です。

カモの仲間としては珍しく、オスとメスはほぼ同じ色合いをしています。ただし、オスの額にはガチョウのようにくちばしから連なるこぶがあり、特に繁殖期にはこれが顕著に大きくなります。若い個体は頭部が光沢のない灰黒色で、全身の色も成鳥に比べてくすんでいます。

分布と渡り

ツクシガモは、ヨーロッパ北部の沿岸部やアジアの中央部で繁殖を行います。繁殖期を終えた後は、冬を越すために南下し、南ヨーロッパや北アフリカといった地中海地域、インド、中国東部、朝鮮半島南部などで越冬します。ドイツ北西部にあるワッデン海は、ヨーロッパ北西部の個体が大規模に集まる越冬地として知られており、約10万羽ものツクシガモが見られることがあります。

日本へは冬鳥として渡来しますが、かつては有明海を中心とした九州北部に特に多くの数が飛来していました。この地域への多さが和名の由来ともなっています。九州以外では、主に西日本に時折姿を見せる程度でした。しかし、日本最大の干潟を持つ有明海の諫早湾で干拓事業により干潟が消滅した頃から、瀬戸内海や大阪湾など、各地で定期的に少数が記録されるようになりました。特に大阪湾の夢洲では200羽を超える記録があり、九州に次いで多くの個体が飛来する場所となっています。なお、干潟の減少とツクシガモの越冬地変化との正確な因果関係は、まだ完全に明らかになっていません。東日本での飛来はまれです。

生態

越冬地では、干潟や内湾などの海岸環境で生活し、休息時には海岸や海面に集まります。普段は比較的小さな群れで行動していますが、渡りの直前には1000羽近くの大群を形成することもあります。繁殖期には、海岸や河口に加え、内陸の湖沼などでも見られます。

食性は動物性の餌を主に食べます。採餌は主に干潮時に行われます。潮が引いて露出した干潟の上を歩きながら、地面にくちばしを差し込み、左右に振り動かして餌を探します。この方法で、地中にいる甲殻類や貝類、さらには藻類、小さな魚類、水生昆虫などを捕らえて食べます。

繁殖は卵生です。繁殖期は4月から7月にかけてで、営巣場所は地面に掘った穴や木のうろなどが選ばれます。巣材には草や羽毛が敷かれます。一度の産卵数は7個から12個で、抱卵はメスが行います。ヒナが孵った後の育雛は、オスとメスの両親が協力して行います。

保全状況

国際自然保護連合（IUCN）のレッドリストでは、軽度懸念（LEAST CONCERN）と評価されています。一方、日本の環境省レッドリストでは、絶滅危惧II類（VU）に指定されており、国内においては保全上の注意が必要な種とされています。

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