諫早湾

諫早湾

諫早湾は、有明海の中央部西岸から南西に深く入り込んだ湾であり、かつては「泉水海」とも呼ばれていました。遠浅の干潟が広がり、古くから有明海の干拓が行われてきた場所です。

地理

諫早湾は、多比良と竹崎を結ぶ線より西側の水域と定義され、面積は約65平方キロメートル（調整池を除く）です。沿岸には、長崎県の諫早市と雲仙市、佐賀県の太良町が位置しています。湾の北東部は有明海に繋がっており、北西部には多良岳山系、南部には島原半島がそびえ、山々に囲まれた地形が特徴です。湾奥には諫早平野と干拓地が広がっています。

主な流入河川としては、本明川をはじめ、田古里川、船津川、境川、深海川などがあります。これらの河川は、有明海の中でも大規模な河川が少ない地域において、重要な役割を果たしています。諫早湾は、有明海と同様に干満の差が大きく、遠浅の地形が特徴です。しかし、有明海の主な海流の影響は小さく、海底や干潟には細かい泥が厚く堆積しています。

歴史

諫早湾の潮間帯には、かつて広大な泥干潟が広がっていました。そこには、シチメンソウ、ウミマイマイ、ハイガイ、タイラギ、カキ、アゲマキ、ハラグクレチゴガニ、アリアケガニ、シオマネキ、ムツゴロウなど、多くの生物が生息していました。これらの生物は、干潟の生態系を構成する重要な要素でした。

しかし、食糧難時代に農地を増やす目的で計画された国営諫早湾干拓事業が、その目的を変えながら進められました。1989年から開始されたこの事業は、1997年には諫早市と雲仙市に跨る約35平方キロメートルの海域を締め切り、大規模な干拓地が造成されました。この締め切りにより、干潟の乾燥化と調整池内の淡水化が進み、干潟の生物は徐々に死滅しました。一方で、二枚貝の一種であるヒラタヌマコダキガイが激増するなど、生態系に大きな変化が生じました。

また、干拓事業は水質汚染を引き起こし、周辺では悪臭を感じることもあります。汚染された水が排出されることで、有明海全体の汚染も懸念されています。さらに、工事に使用された海砂の採取が、有明海中央部で貧酸素水塊を発生させたという報告もあります。干拓によって造成された農地も、実際には石や貝殻が散らばっており、農業に適しているとは言えません。この干拓事業は、開門派漁民との対立を深刻化させ、「死の海」「横綱格の失敗事業」とまで評されるようになっています。

締め切り堤防の上には諫早湾干拓堤防道路が作られ、2007年末に開通しました。

環境への取り組み

近年では、失われた生態系を取り戻そうとする動きも一部で見られます。例えば、鉄粉や粉炭、粘土を混ぜて団子状にした「炭鉄団子」を海や川に沈めることで、植物プランクトンの生育を促し、魚介類が生育できる環境に戻す試みが行われています。これにより、水質改善や生態系の回復が期待されています。

まとめ

諫早湾は、かつては豊かな干潟生態系を誇っていましたが、大規模な干拓事業によってその姿は大きく変えられました。干拓は、生態系の破壊、水質汚染、そして地域住民間の対立という深刻な問題を引き起こしました。現在では、環境回復の取り組みも始まっていますが、失われた自然を取り戻すには、多くの時間と努力が必要です。

参考文献

• - 佐藤正典編『有明海の生き物たち 干潟・河口域の生物多様性』海游社 2000年 ISBN 4-905930-05-7

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