ツクシナルコ

ツクシナルコ (Carex subcernua Ohwi 1930)

ツクシナルコは、スゲ属に属する特徴的な植物であり、日本の南部地域に分布する希少な種です。根茎は短く、密集した大株を形成し、ススキに似た印象を与えますが、果胞に見られる明確な脈により、他の類似種との区別が可能です。

特徴

ツクシナルコは多年生の草本で、その成長時には高さ40〜80cmに達する花茎を持ち、基部にはそれほど発達しない鞘が存在します。この鞘は暗褐色をしており、細い糸網のような構造を形成します。葉は幅が3〜6mmで、表面は青白緑色、裏面は灰緑色をしています。

花期は主に5月から6月です。小穂は4〜6個から成り、その先端部分と近くには雌花部があり、基部に向かうにつれて雄花部が現れます。花序の苞は葉身がよく発達しており、基部に鞘は持ちません。雌花の鱗片は果胞とほぼ同じ長さで、鉄錆色を帯び、鋭く尖ったり短く芒状に突き出たりしています。果胞は扁平で、長さは3〜3.5mmで、乳頭状の突起が密生し、顕著な脈が4〜5本走っています。果実は倒卵形をしており、その断面はレンズのように見え、長さは1.5〜2mmで、柱頭は2つに裂けます。

分布と生育環境

ツクシナルコは主に日本の紀伊半島、四国、九州および対馬、トカラ列島の中之島で確認されています。また、中国にも分布が見られます。特に本州では三重県、四国では徳島県での生育が確認されており、和歌山県でも確実な生育地が存在します。九州では福岡県、長崎県、大分県、宮崎県、鹿児島県においてその分布が記録されています。

この植物は平野のため池や低山地域の水辺に生育し、アゼナルコと共に見られることがあり、ツクシナルコは水辺側に生育することが多いです。

分類と類似種

ツクシナルコは花序の小穂が雌雄性で、側小穂が雌性、また苞に鞘がなく果胞が無毛で、柱頭が2裂するという特徴を持っています。特に、アゼナルコ (C. dimorpholepis) と非常に似ており、特に雌雄性の小穂の構成や垂れ下がる側小穂が共通しています。しかし、雌花の鱗片の形状や果胞の脈の有無、夏緑性の特徴などにおいて、ツクシナルコとアゼナルコには明確な違いがあります。

保護の状況

ツクシナルコは環境省のレッドデータブックで絶滅危惧IB類（EN）に指定されており、県別に見ると三重県、和歌山県、徳島県、長崎県では絶滅危惧I類、福岡県、宮崎県、鹿児島県では絶滅危惧II類、大分県では準絶滅危惧が指定されています。特にため池に多く生育し、環境の改変や水質悪化の影響を受ける可能性があるため、その保護が非常に重要です。

出典

• - 大橋広好他編、『改定新版 日本の野生植物 1 ソテツ科～カヤツリグサ科』(2015)
• - 勝山輝男、『日本のスゲ 増補改訂版』(2015)
• - 矢原徹一他監修、『レッドデータプランツ 増補改訂新版』(2015)
• - 和歌山県環境生活部環境制作局環境生活総務課自然環境室、『保全上重要なわかやまの自然 ―和歌山県レッドデータブック―［2012年改訂版］』(2012)

ツクシナルコはその独特の特性から、多くの生態系において重要な役割を果たす植物です。

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