アカガシ

アカガシ（赤樫）

アカガシ（学名: Quercus acuta）は、ブナ科コナラ属に分類される常緑広葉樹です。日本を代表する樹木の一つで、その特徴的な姿は多くの人々に親しまれています。

形態

アカガシは、高さ20メートルにも達する高木です。森林内ではさらに大きく成長し、堂々とした姿を見せます。若木の樹皮は灰色ですが、老木になると不規則に剥がれ、橙色が混じったまだら模様になります。若い枝は紫褐色をしています。

葉は互生し、長楕円形で先端が尖っています。コナラ属の中では珍しく、鋸歯がないのが特徴です。葉の表面は深緑色で、裏面はやや薄い色をしています。カシ類の中では、最も大きく、扁平で厚みのある葉を持つのが特徴です。新葉が開く際には、褐色の毛に覆われています。

4月から6月頃に開花し、雌雄同株です。雄花は垂れ下がった黄褐色の花序を形成し、多数の雄花を咲かせます。雌花は葉腋から直立し、5～6個の雌花をつけます。

果実はドングリとして知られる堅果で、翌年の10月頃に成熟します。殻斗には褐色の毛があり、熟すと食用にすることも可能です。冬芽は楕円形で、細かい毛で覆われ、葉の付け根に多数の芽鱗に包まれて形成されます。

生態

アカガシは、他のブナ科樹木と同様に、菌類と共生し菌根を形成します。この共生関係は、樹木が栄養分を吸収しやすくし、菌類が光合成産物を得るという、双方にとって有益なものです。菌類の中にはキノコとして成長するものもあり、食用になるものもあります。土壌中には、菌根から菌糸を通して、同種や他種の植物とつながる広大なネットワークが存在すると考えられています。

アカガシの花は地味で、花粉は風によって運ばれます（風媒）。風媒花は原始的な花と見なされることもありますが、ブナ科やイネ科は進化の過程でこの形質を獲得したと考えられています。

種子は重力によって散布されますが、動物も大きな役割を果たしています。ドングリは渋く、有毒ですが、ツキノワグマやイノシシは唾液中にタンニンを中和する成分を持ち、ドングリを食用にできます。ネズミはドングリを貯食する行動が発芽に大きく貢献しており、カケスも遠方への種子散布に関与している可能性があります。

近年、菌根の種類、花粉の媒介、種子の散布様式という3つの要素が、互いに連携して進化してきたのではないかという説が提唱されています。外生菌根、風媒花、重力散布（および風散布）は、同種が密集する状況ほど有利になる形質と考えられています。

ドングリは昆虫の餌にもなり、種子の死亡率に大きく影響しています。特に、シギゾウムシ類やハマキガ類による食害が目立ちます。虫害を受けても一部は生存し発芽しますが、実生の成長はやや劣ります。ネズミは健全なドングリを好みますが、虫害を受けたドングリも食べることが知られています。

ドングリは秋に落下するとすぐに根を伸ばし、春には本葉を展開させます。子葉は地中のドングリ内に残り、ネズミに捕食されることもあります。アカガシは耐陰性が高く、ギャップの形成を待つ陰樹に多いタイプです。耐乾性もあり尾根筋にも定着できますが、条件の良い谷筋で優勢な群落を作ることが多いです。アラ[[カシ]]とは異なり、石灰岩質の土壌を嫌います。

常緑ブナ科の葉は、ムラサキシジミ族のチョウの食草となります。アカガシにはムラサキシジミが付着し、幼虫は蜜を分泌してアリと共生します。

ナラ枯れ

アカガシは、ナラ枯れ（ブナ科樹木萎凋病）の被害を受けることがあります。この病気は、カシノナガキクイムシによって媒介される菌類によって引き起こされ、全国的にブナ科の樹木に大きな被害をもたらしています。

分布

アカガシは、本州の宮城県・新潟県以西、四国、九州、朝鮮半島南部、中国、台湾に分布しています。

人間との関係

アカガシの木材は非常に硬く、重いため、「堅し木」が名前の由来とされています。気乾比重は平均0.9程度で、成長の良い良材ほど硬く重くなります。年輪は目立たず、柾目にはトラのような模様（杢）が現れ、美しいと評価されます。板目面にはカシメと呼ばれるゴマ状の模様が見られます。

萌芽力が強く、定期的に収穫できるため、燃料として優れています。また、薪や木炭としても重宝され、黒炭、白炭のどちらにも加工できます。宮崎県北部では、アラ[[カシ]]ではなくアカガシを用いた白炭（備長炭）が作られています。

アカガシは、屋敷林、公園樹、庭園樹などにも利用されます。移植や刈り込みに強く、実生も容易で成長も早いため、利用しやすい樹種として知られています。器具、車両、船舶、機械、枕木、木刀など、さまざまな用途に使われ、特に木刀は有名です。三味線の棹にも使われてきました。鉄器以前の時代には、農具の鍬の刃にも使われました。古墳から出土したアカガシ製の修羅は、その巨大さが話題になりました。

分類

コナラ属内の分類は、従来、殻斗の模様によってコナラ亜属とアカガシ亜属に分けられてきましたが、近年では遺伝子に基づいた分類が提唱されています。アカガシには、アツバアカガシ、オオアカガシ、キクアカガシなどの変種や、シロスジアカガシ、ヤナギアカガシ、アカスジアカガシなどの品種、イズアカガシ（アラ[[カシ]]との交雑種）やオオツクバネガシ（ツクバネガシとの交雑種）などの交雑種が知られています。

名称

アカガシという名前は、材が赤みを帯びていることや、若い枝と葉に赤褐色の毛が目立つことに由来するといわれています。別名として、オオガシ、オオバガシ、アツバアカガシなどがあります。

天然記念物

アカガシは、各地で天然記念物に指定されています。国指定の天然記念物としては、洲藻白嶽原始林や龍良山原始林などがあります。また、都道府県や市町村指定の天然記念物も多く存在します。


アカガシは、その美しい姿と多様な生態、人間との深い関わりから、日本の自然を語る上で欠かせない樹木の一つです。

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