ツシマヤマネコ

ツシマヤマネコ (Prionailurus bengalensis euptilurus)

ツシマヤマネコは、ネコ科に属するベンガルヤマネコの亜種で、日本では長崎県の対馬にのみ生息する固有の野生ネコです。アムールヤマネコとも呼ばれ、かつてはマンシュウヤマネコ、チョウセンヤマネコとも呼ばれていました。

分布と歴史

ツシマヤマネコは、モンゴル、中国北部、東シベリア、朝鮮半島、済州島（絶滅）に分布するアムールヤマネコの一亜種とされています。分子生物学的な研究によれば、約10万年前にアジア大陸から対馬に渡来したと考えられています。対馬では古くから「山ねこ」と呼ばれていましたが、ツシマヤマネコを区別する際には「とらやま」という呼び名も使われていました。これは、虎のような毛並みを持つヤマネコという意味です。また、地域によっては水田付近にも現れることから「田ネコ」や「里ネコ」と呼ばれることもありました。2005年には、10月8日が「ツシマヤマネコの日」と制定されています。

江戸時代には、大型のヤマネコ「オオヤマネコ」の目撃情報もあり、ツシマヤマネコとは区別されていました。このオオヤマネコは、体長が1.2mにも達し、全身が黄土色の毛で覆われていたとされています。

分類

環境省のレッドリストでは、ツシマヤマネコはベンガルヤマネコの亜種とされていますが、かつては独立種とする説もありました。また、台湾や西表島のイリオモテヤマ[[ネコ]]を本亜種に含める説も存在します。

特徴

ツシマヤマネコの主な特徴は以下の通りです。

体長: 50-80cm
体重: 3-5kg
寿命: 8-10年
生息数: 80-110頭（2000年代前半から2010年代前半の推定）
耳の裏に白色の斑点

絶滅の危機と保護対策

ツシマヤマネコは、日本に生息する野生のネコ科動物の中でも、絶滅の危機に瀕している種の一つです。1994年に国内希少野生動植物種に指定され、環境省によって保護活動が進められています。ツシマヤマネコは1971年に国の天然記念物に指定されましたが、イリオモテヤマ[[ネコ]]のように特別天然記念物には指定されていません。環境省のレッドリストでは、最も絶滅の危険性が高い絶滅危惧IA類に分類されています。

減少の要因

ツシマヤマネコの減少には、以下のような様々な要因が複合的に絡み合っています。

狩猟: かつては毛皮目的や害獣駆除、食用として狩猟されていました。
生息地の破壊: 森林伐採や針葉樹の植林により、生息地が減少しました。また、耕作放棄地の増加により、餌となる小動物も減少しました。
競合種の増加: ツシマテンやチョウセンイタチといった競合種が、開発が進んだ環境でも生き残っています。除鼠剤や農薬の使用も、ツシマヤマネコの生存を脅かしています。
交通事故: 道路整備が進んだことで、交通事故による死傷も増加しています。
感染症: 野良猫から感染したとみられるネコエイズ（FIV）感染も確認されています。
罠: 農家が設置した罠（トラバサミ）によって怪我をする個体もいます。

保護活動

ツシマヤマネコの保護のため、以下のような様々な取り組みが行われています。

種の保存法: 1994年に国内希少野生動植物種に指定されました。
対馬野生生物保護センター: 1997年に開設され、生態調査、傷病個体の保護、環境教育などを行っています。
人工繁殖: 福岡市動植物園、井の頭自然文化園、よこはま[[動物園ズーラシア]]などで人工繁殖が試みられています。
生息地の保全: 国指定鳥獣保護区の設置や、地元自治体・NPOによる保護活動が行われています。
野生順化ステーション: 2013年には、野生復帰を目指した訓練施設が設置されました。

今後の課題

ツシマヤマネコの保護には、生息地の保全、交通事故対策、感染症対策、住民の理解促進など、様々な課題があります。今後も、関係機関や地域住民が連携し、ツシマヤマネコの保護に取り組んでいく必要があります。