ツボスミレ

ツボスミレ（ニョイスミレ）

ツボスミレ Viola verecunda は、スミレ科スミレ属の多年草です。別名ニョイスミレとも呼ばれます。小さく可愛らしい姿で、人々の心を和ませてくれます。

特徴

全体的に小柄で、茎は地を這うように伸びます。そのため、他の植物に紛れて見過ごされてしまうこともあります。

葉：丸みを帯びたハート形で、緑色でつやがありません。縁には低い鋸歯があります。根出葉の葉柄は長く、茎葉の葉柄は短いです。
花：白色で、花弁の基部には紫色の筋が入ります。上弁は反り返り、距は丸く短いのが特徴です。花柄は葉よりも少し上に伸びて花をつけます。
草丈：5cmから25cm程度です。
その他：地下茎は短く、地上に根出葉と複数の茎を伸ばします。茎は斜めに伸びるか横に這い、葉をつけます。

生育環境

やや湿った、木陰にならない草地を好みます。人里近くでも見られ、畑の畦道や水路脇などに群生していることがあります。市街地ではあまり見かけません。

分布

日本では北海道から九州、屋久島まで広く分布しています。国外では東アジアに分布しています。タチツボスミレに次いで個体数が多いと言われています。

変異

ツボスミレは変異が大きく、特に葉の形に様々なバリエーションがあります。

アギスミレ var. semilunaris：葉身が短く、基部が深く心形になります。本州中部以北の湿地に多く見られます。
ミヤマツボスミレ var. fibrilosa：葉が円形に近く、表面に微毛があります。高山に生育します。
ヒメアギスミレ var. subaequiloba：アギスミレに似ていますが、より小型で、茎から根を下ろします。
コケスミレ var. yakusimana：さらに小型で、屋久島にのみ見られます。

近縁種

白い花を咲かせるスミレは他にもありますが、ツボスミレのように茎を伸ばす種類は少ないため、比較的見分けやすいでしょう。タチスミレは、ツボスミレに似ていますが、茎が立ち上がり、より大型になります。

和名について

和名にはツボスミレとニョイスミレがあります。ツボスミレは、庭に生えるスミレという意味で、古くからの名前です。ニョイスミレは、葉の形が仏具の如意に似ていることに由来し、牧野富太郎博士が命名しました。牧野博士は、ツボスミレという名前が紛らわしいとして、ニョイスミレという名前を提唱しました。しかし、現在でもツボスミレという名前が広く使われています。

変種であるアギスミレは、葉の基部の出っ張りを顎に見立てたものです。

和名は学名と異なり、植物学上の正式な地位を持たないため、どちらの名前を使用しても間違いではありません。

参考文献

いがりまさし、『山渓ハンディ図鑑6　増補改訂　日本のスミレ』、(2008)、山と渓谷社
牧野富太郎、『牧野　新日本植物図鑑』、(1961)、図鑑の北隆館
* 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎他『日本の野生植物　草本II 離弁花類』,(1982),平凡社

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