ツリガネニンジン

ツリガネニンジン（釣鐘人参）

ツリガネニンジン（学名: Adenophora triphylla var. japonica）は、キキョウ科ツリガネニンジン属に分類される多年草です。その名の通り、釣鐘のような形をした花を咲かせ、根が朝鮮人参に似ていることからこの名が付きました。若苗は山菜として珍重され、地域によっては「トトキ」という名で親しまれています。

名称の由来と別名

和名であるツリガネニンジンの由来は、特徴的な花の形と根の形状にあります。地方によって様々な別名があり、「トトキ」「アマナ」「ツリガネソウ」「チョウチンバナ」「ヌノバ」「ミネバ」「ヤマシャジン」など、地域ごとの呼び名が存在します。アイヌ語では「ムケカシ」、中国植物名では「南沙参（ナンシャジン）」と呼ばれています。

分布と生育環境

ツリガネニンジンは、日本全国（北海道・本州・四国・九州）に広く分布しており、国外では樺太や千島列島にも見られます。山野や山麓、山地の草原、林縁、草刈りなど手入れの行き届いた河川堤防、山道の脇など、日当たりの良い場所に自生します。水はけが良く、日光が当たる場所を好み、群生することが多いです。

形態と生態

ツリガネニンジンは多年草であり、地中に太く白い根を持ちます。茎は直立し、高さは40cmから100cm程度に成長し、全体に毛が生えています。根元から生える葉（根生葉）は円心形で、開花時期には枯れてしまいます。茎につく葉は通常3〜5枚が輪生し、茎の上部では互生します。葉の形は長楕円形、卵形、楕円形、披針形と多様で、やや厚みがあり、つやはありません。葉の縁には鋸歯が見られます。植物体を切ると白い乳液が出て、手に付着すると黒変する性質があります。

開花時期は夏から初秋（8月〜10月頃）で、枝分かれした茎の先端に円錐状の花序を形成し、淡い紫色の釣鐘形の花を下向きに咲かせます。花は茎に段々に多数つき、少数ずつ輪生します。花冠の長さは15〜20mmで、先端はやや広がり、裂片は反り返ります。萼片は糸状で鋸歯があり、花柱が花冠から突き出ているのが特徴です。

果実は蒴果で、広楕円形をしており下向きにつきます。未熟な果実は緑色をしていますが、成熟すると褐色に変化し、先端には細い萼片が残ります。果実の一部が反り返ることで3つの穴が開き、そこから多数の種子が放出されます。種子は小さく、長さ約2mmの長楕円形で、淡褐色の滑らかな表面をしています。

変異

ツリガネニンジンは変異の大きい植物であり、特に開花期以外では葉の形や付き方が大きく異なることがあります。基本変種であるサイヨウシャジン(var. triphylla)は、花冠がやや細い壺型で、花柱が長く突き出ることで区別されます。また、ハクサンシャジンやタカネツリガネニンジン(var. hakusanensis Kitam.)は高山植物型で、花茎が短く花が密集しています。四国の一部蛇紋岩地帯には、オトメシャジン(var. puellaris Hara)と呼ばれる小型の変種も存在します。

利用

ツリガネニンジンは、春の山菜として「トトキ」の名で親しまれており、美味しく食べられます。秋に掘り起こした根は薬用としても利用され、花はその美しい姿から観賞用として栽培されることもあります。

食用

若苗、若葉、花は食用可能です。春に芽吹いたばかりの若芽は、山菜のトトキとして人気があり、アクやクセがなく、淡白で素朴な風味が特徴です。長野県の俚謡では、「山でうまいはオケラにトトキ、里でうまいはウリ、ナスビ、嫁に食わすは惜しうござる」と歌われるほど、その美味しさが庶民に親しまれています。

採取時期は、温暖な地域では4月頃、寒冷地では5月頃が目安です。採取の際は、環境保全のため、株の半分以上の芽を残し、根を掘り起こさないように注意しましょう。調理法としては、さっと茹でて水にさらし、おひたし、和え物、炒め物、煮びたし、菜飯などにして食べるのが一般的です。生のまま天ぷらや汁の実として利用することもできます。花は酢の物やサラダの彩り、あるいは軽く茹でて吸い物の椀種として利用できます。塩漬けや乾燥させて保存することも可能です。

朝鮮人参に似た根は、強壮作用があると言われており、年間を通して採取できます。細いひげ根を取り除き、千切りにしてきんぴらなどに調理します。

生薬

2年以上経過した紡錘形または円柱形の根は、「沙参（シャジン）」または「南沙参（ナンシャジン）」と呼ばれ、生薬として用いられます。秋（11月頃）に地上部が枯れた後に根を掘り出し、細根を取り除いて天日乾燥させたものが利用されます。1日量5〜10gを400〜600ccの水で半量になるまで煎じ、1日3回に分けて服用したり、うがい薬として利用する方法が知られています。健胃、去痰、鎮咳などの効果があり、強壮作用もあるとされています。

日本では沙参といえばツリガネニンジンを指しますが、中国ではハマボウフウを指します。そのため、ツリガネニンジンを南沙参、ハマボウフウを北沙参と呼んで区別します。かつては朝鮮人参の偽物として用いられたこともあったようですが、薬効は異なり、代用にはなりません。

近縁種

ソバナ (Adenophora remotiflora)
フクシマシャジン (Adenophora divaricata)
* ツルニンジン：朝鮮でトドックと呼ばれる代表的な山菜。ツリガネニンジンの古い呼び名であるトトキと名前が似ているが関係の有無は不明。

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