ツール・ド・フランス1975

ツール・ド・フランス1975：世代交代の幕開け

1975年、第62回ツール・ド・フランスは、6月26日から7月22日まで全22ステージで開催されました。この大会は、ロードレース界に新たな風を吹き込む、世代交代の象徴的なレースとして記憶されています。

大会のみどころ

前年、ジロ・デ・イタリア、ツール・ド・フランス、世界選手権の三冠を達成し、絶対王者として君臨していたエディ・メルクス。前人未到の6度目のツール制覇を目指し、万全の状態で臨みました。しかし、若き才能たちがその牙城を崩そうと、果敢に挑みます。

長年メルクスの壁を越えられずにいたレイモン・プリドール、2年前にメルクス不在のツールを制したルイス・オカーニャ、そしてフェリーチェ・ジモンディやヨープ・ズートメルクといった強豪たちが、打倒メルクスに燃えていました。しかし、多くの人々は、彼らがメルクスの引き立て役にしかならないだろうと考えていました。

そんな中、ツール初出場となるイタリアのフランチェスコ・モゼール、そして前年は病に苦しんだ地元フランスのベルナール・テブネが予想外の活躍を見せ、メルクスを苦境に陥れます。また、この年からパリのシャンゼリゼ通りが最終ゴール地点となり、新人賞（マイヨ・ブラン）制度が導入されるなど、新たな試みがなされた大会でもありました。

レース展開

プロローグの個人タイムトライアルで、モゼールがマイヨ・ジョーヌ（個人総合時間賞）を獲得するという波乱の幕開け。モゼールは第5ステージまでマイヨを保持し、周囲を驚かせました。第6ステージの個人タイムトライアルでメルクスがマイヨを奪還すると、誰もが「メルクスの時代は終わらない」と感じたことでしょう。

しかし、モゼールは続く第7ステージで勝利し、メルクスに食らいつきます。このモゼールの奮闘が、結果的にメルクスの勝利の方程式を狂わせることになります。前半戦最大の山場となる第9ステージの個人タイムトライアルで、メルクスはモゼールに1分39秒差をつけ、初めて分単位でのリードを奪います。しかし、テブネが2分20秒差の3位につけ、その存在感を示しました。

ピレネー山脈に突入した第11ステージで、大きく後退したモゼールに代わり、テブネが1分31秒差で2位に浮上。そして、アルプス山脈が舞台となる第15ステージ、ニースからプラルーへの区間で、ロードレース史に残る世代交代劇が繰り広げられます。

標高2000m級の山々が連なる、今大会最難関のステージ。シャン峠、アロ峠をメルクスが先頭で通過しますが、徐々にその走りに精彩を欠き始めます。すると、テブネがチームメイトのサポートを受け、果敢にアタック。見事この区間を制し、メルクスに1分56秒差をつけました。この結果、テブネが総合首位に立ち、メルクスに58秒差をつけてマイヨ・ジョーヌを奪取します。

勢いに乗るテブネは、第16ステージでもメルクスに2分22秒差をつける圧勝。総合タイム差を3分20秒にまで広げます。メルクスは第18ステージの個人タイムトライアルで15秒差まで縮めますが、テブネの牙城を崩すには至らず、勝負は決しました。

最終的に、テブネがメルクスに2分47秒差をつけ、初のツール・ド・フランス個人総合優勝を飾りました。それまで、ツール・ド・ロマンディでの勝利程度のタイトルしか持たなかったテブネが、73年のツールで2位に入賞したものの、優勝したオカーニャに15分以上の大差をつけられていたことを考えると、その躍進は目覚ましいものでした。

その後

初代新人賞を獲得したモゼールですが、ツール・ド・フランスに出場したのは、この年が最初で最後となりました。

テブネは77年のツールでも総合優勝を果たしますが、この年はメルクスが出場した最後のツールとなりました。メルクスは、この大会以降、他のレースでも勝利から遠ざかり、メルクスの栄光を支え続けたモルテーニチームは、翌76年に解散を余儀なくされました。

総合成績

優勝：ベルナール・テブネ（フランス）
2位：エディ・メルクス（ベルギー）
* 3位：フェリーチェ・ジモンディ（イタリア）

この大会は、ベルナール・テブネという新たなヒーローの誕生と、エディ・メルクスの時代の終焉を告げる、歴史的なターニングポイントとなりました。

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