ティシュトリヤ

ティシュトリヤは、ゾロアスター教における重要な神格であり、星と慈雨を司る神として崇拝されています。特に、全天で最も明るい恒星であるシリウスを神格化したものとされ、その神聖な光は、古代イランの人々にとって特別な意味を持っていました。彼は中級神ヤザタに分類され、その力は人々の生活に密接に関わっていました。

ティシュトリヤの名前は、アヴェスター語形では「ティシュトリヤ」と表記され、パフラヴィー語では「ティシュタル」と呼ばれます。この名前は、シリウスがもたらす恵みと、その神格化された姿を表しています。古代イランでは、シリウスは星々の王として非常に重視されており、その輝きは人々に希望と豊穣の象徴でした。一方、惑星は、その動きが予測不可能であることから、悪星とみなされていました。シリウスの規則正しい運行は、天体の秩序を象徴し、その光は善の力として捉えられていました。

また、古代イランでは、シリウスが夜明け前に見える時期が雨季の始まりと重なっていました。このため、ティシュトリヤは雨の神としても崇められるようになりました。彼は、天から恵みの雨を降らせ、大地を潤し、人々の生活を支える存在として、畏敬の念を集めていました。

ティシュトリヤは、変身能力に長けているとも伝えられています。彼の神話では、彼は敵対する悪神アパオシャ（旱魃）と戦う物語が語られています。この戦いにおいて、ティシュトリヤは様々な姿に変身しながらアパオシャと対峙します。この変身能力は、彼の多面的な力と、変化する自然現象に対応する能力を示唆しています。

ティシュトリヤがアパオシャとの戦いに勝利すると、彼は白馬の姿でウォルカシャ海に降り立ちます。そして、水蒸気を発して雲を起こし、世界に恵みの雨を降らせるとされています。この白馬の姿は、清らかさと力を象徴し、彼の勝利と雨をもたらす能力を視覚的に表現しています。ウォルカシャ海は、神話的な海として、ティシュトリヤの力が発揮される重要な場所として描かれています。

ティシュトリヤは、星の神としてだけでなく、雨の神としても、ゾロアスター教において非常に重要な役割を果たしています。彼の物語は、自然の力と神々の戦いを象徴的に描いており、古代イランの人々の自然観と宗教観を理解する上で、重要な手がかりとなります。彼の存在は、星空への畏敬の念と、恵みの雨への感謝の念を、人々に抱かせたことでしょう。ティシュトリヤの神話は、単なる物語としてではなく、古代の人々の生活と信仰に深く根付いた、生きた文化遺産として、今も語り継がれています。

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