ティン・パン・アレーとは？意味をやさしく解説

ティン・パン・アレー：アメリカポピュラー音楽の揺籃

ティン・パン・アレー（Tin Pan Alley）は、19世紀末から20世紀初頭にかけて、アメリカのポピュラー音楽界を牽引した、ニューヨーク市マンハッタンの28丁目、ブロードウェイと6番街に挟まれた一帯を指す名称です。当初は、この場所に集積した音楽出版社や、そこで生み出された音楽そのものを指す言葉として使われました。

その名の由来

この地が「ティン・パン・アレー」と呼ばれるようになったのは、1890年代後半のことです。当時、ブロードウェイのミュージカル音楽に関わる出版社や、楽譜の販売業者がこの地域に集中していました。レコードがまだ普及していなかった時代、音楽の主な商品は楽譜であり、出版社では楽譜の販売促進のため、楽曲の試演が頻繁に行われていました。それぞれの会社で、まるで鍋や釜を叩いているような騒がしい演奏が絶え間なく聞こえてきたことから、この場所は「ティン・パン・アレー」、すなわち「錫鍋小路」と呼ばれるようになったのです。

ポピュラー音楽の革新

ティン・パン・アレーは、ポピュラー音楽における作詞家、作曲家、歌手という分業システムを確立した場所としても特筆されます。このシステムは、それぞれの専門家がそれぞれの役割に集中することを可能にし、効率的な楽曲制作を促進しました。この地からは、ジェローム・カーン、アーヴィング・バーリン、コール・ポーターといった、後の音楽界を代表する作曲家たちが数多く輩出されました。

ティン・パン・アレーで生まれた音楽は、商業的なポップスとして広く受け入れられ、後に「ティン・パン・アレー系」と呼ばれるジャンルを形成しました。この流れは、さらに発展し、「ブリル・ビルディング系」という新たな音楽スタイルへと繋がっていきます。

若き日のジョージ・ガーシュウィン

著名な作曲家ジョージ・ガーシュウィンも、15歳頃にティン・パン・アレーで、楽譜を買いに来た客に楽曲を試演するアルバイトをしていました。当時、高価だったレコードの代わりに、客は楽譜を購入し、自宅で演奏を楽しんでいました。ガーシュウィンは、この経験を通して音楽の世界に足を踏み入れ、後に偉大な作曲家となるための基礎を築いたと言えるでしょう。

ティン・パン・アレーを代表する作曲家・作詞家たち

ジェローム・カーン
アーヴィング・バーリン
コール・ポーター
ハロルド・アーレン
ジョージ・ガーシュウィン
ハリー・ウォーレン
リチャード・A・ホワイティング
ジャック・イェレン
ヴィンセント・ユーマンス
ジョー・ヤング (作詞家)

ティン・パン・アレーを彩った名曲の数々

"煙が目にしみる" (ジェローム・カーン)
"ホワイト・クリスマス" (アーヴィング・バーリン)
"ビギン・ザ・ビギン" (コール・ポーター)
"アレクサンダーズ・ラグタイム・バンド" (アーヴィング・バーリン, 1911)
"ブルー・スカイ" (アーヴィング・バーリン)
"オールウェイズ" (アーヴィング・バーリン)
"踊るリッツの夜" (アーヴィング・バーリン)
"ゴッド・ブレス・アメリカ" (アーヴィング・バーリン)
"ソー・イン・ラヴ" (コール・ポーター)
"トゥルー・ラヴ" (コール・ポーター)
"ナイト・アンド・デイ" (コール・ポーター)
"ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ" (コール・ポーター)
"A Bird in a Gilded Cage" (Harry Von Tilzer, 1900)
"After the Ball" (Charles K. Harris, 1892)
"エイント・シー・スウィート" (Jack Yellen & Milton Ager, 1927)
"Alabama Jubilee" (Jack Yellen & George L. Cobb, 1915)
"All Alone" (Irving Berlin, 1924)
"At a Georgia Campmeeting" (Kerry Mills, 1897)
"Baby Face" (Benny Davis & Harry Akst, 1926)
"Bill Bailey, Won't You Please Come Home" (Huey Cannon, 1902)
"By the Light of the Silvery Moon" (Gus Edwards & Edward Madden, 1909)
"Carolina in the Morning" (Gus Kahn & Walter Donaldson, 1922)

ティン・パン・アレー