ブリル・ビルディング

ブリル・ビルディング：音楽史を彩る伝説の地

ニューヨーク、マンハッタンの49丁目通り、ブロードウェイ1619番地に位置するブリル・ビルディングは、音楽業界において特別な存在感を放つオフィスビルです。タイムズ・スクエアのすぐ北に位置し、その歴史は音楽の進化と密接に結びついています。

歴史

1931年、アラン・E・レフコート・ビルディングとして竣工したこの建物は、当初は11階建て、総床面積16300平方メートルの規模でした。設計を手掛けたのはヴィクター・バークJr.。その後、小間物商として成功した人物がこのビルを購入し、「ブリル」という名前が冠されることになりました。2013年にはLLC社が買収し、近年では改装も行われています。

ビッグバンド時代からブリル・ビルディング・サウンドへ

ブリル・ビルディングは、1930年代後半から音楽出版社や事務所が集まる場所として知られていました。1941年のASCAPストライキ中には、多くの作曲家がペンネームを使用せざるを得ない状況もありましたが、ここから数々の名曲が生まれ、ベニー・グッドマン楽団、グレン・ミラー楽団、ジミー＆トミー・ドーシー楽団など、当時のビッグバンドによって演奏され、ビルボードのチャートを賑わせました。この時代には、レオ・フェイスト社、ルイス・ミュージック・パブリッシング、ミルズ・ミュージック・パブリッシングなどが著名な音楽出版社として名を連ねています。

1950年代後半から1960年代にかけては、ブリル・ビルディングとその周辺に集まるミュージシャンたちが生み出す音楽は「ブリル・ビルディング・サウンド」と呼ばれ、一大ムーブメントを巻き起こしました。1962年には、165もの音楽会社が入居し、出版、印刷、デモ音源制作、レコードの宣伝、ラジオプロモーターとの契約といった音楽制作のすべてのプロセスが一箇所で完結できるという、当時の音楽業界の中心地としての役割を果たしました。

キャロル・キングは、当時を振り返り、ブリル・ビルディングでの作曲競争が非常に激しかったと語っています。彼女によると、狭い個室にピアノとベンチ、そして作詞家用の椅子が置かれ、隣の部屋で作曲中の曲が自分の曲とそっくりに聞こえるような状況だったそうです。ドン・カーシュナーがソングライター同士を競わせ、常に新しいヒット曲を求めていたことが、この時代を象徴しています。

ブリル・ビルディング・サウンドの特徴

ブリル・ビルディング・サウンドは、第一次ロックンロールブーム後に流行したことから、ある意味でロックンロール以前への逆流と見なされることもあります。歌手や演奏家は出版社や事務所の意向で変更されることが多く、音楽業界の中心が経営陣へと移行した時代でもありました。

ブリル・ビルディングに関わった主な人々

ブリル・ビルディングには、数多くの作曲家、作詞家、歌手、アレンジャー、演奏家が関わりました。

作曲家・作詞家：バディー・フェイン、ジョニー・マーサー、ローズ・マリー・マッコイ、アーヴィング・ミルズ、ビリー・ローズなど、数々のヒット曲を生み出した才能が集結しました。

アレンジャー・指揮者：ティーチョ・ウィルシャー、ギャリー・シャーマン、アラン・ローバー、ジミー・ウィズナー、アーティ・バトラー、クラウス・オーガーマン、スタン・アップルバウムなど、楽曲に深みを与えた名アレンジャーたちが活躍しました。

演奏家：ジョージ・デュヴィヴィエ、ミルト・ヒントン（ベース）、アル・ゴーゴニ、カール・リンチ（ギター）、アーニー・ヘイズ、ポール・グリフィン（ピアノ）、ゲイリー・チェスター、バディ・サルツマン（ドラム）、アーティー・キャプラン、フィル・ボドナー（サックス）、ジミー・クリーブランド、ベニー・パウエル（トロンボーン）、ジミー・ノッティンガム、アーニー・ロイヤル（トランペット）など、ジャズ界、セッション界の著名な演奏家たちが名を連ねました。

ブリル・ビルディングを舞台としたフィクション

ブリル・ビルディングは、映画の舞台としても登場しています。
1996年の映画『グレイス・オブ・マイ・ハート』では、イリアナ・ダグラスがキャロル・キングをモデルとしたキャラクターを演じ、ブリル・ビルディングでの音楽制作の様子が描かれています。
1957年の映画『成功の甘き香り』では、実際には住居ではないにもかかわらず、主人公とその妹がブリル・ビルに住んでいるという設定になっています。

ブリル・ビルディングの現在

現在もブリル・ビルディングには、音楽関連の企業が入居しています。ブロードウェイ1619番地と1650番地には、それぞれ複数の企業が経営を続けています。

参考文献

Emerson, Ken (2005). Always Magic in the Air: The Bomp and Brilliance of the Brill Building Era. Viking Penguin. ISBN 0-670-03456-8.
Postal, Matthew A. (2010). "The Brill Building" (designation report). New York: Landmarks Preservation Commission. LP-2387.
Scheurer, Timothy E., American Popular Music: The Age of Rock, Bowling Green State University, Popular Press, 1989.

外部リンク

The Brill Building—The Official Brill Building Website
Brill Building—The History of Rock
About.com: Brill Building—about.com
Times Square Attractions
AOL Music—Pop Artists in the Brill Building—AOL Music
Interview with Toni Wine, Songfacts
Brill Building at the Songwriters Hall of Fame
Spectropop's Brill Building
The Brill Building Songwriters
New York Architecture Images- Brill Building
Regarding Claus Ogerman & his music publishing companies located at The Brill Building
Brill Building Is Named a Landmark
* "Half Empty but Full of History, Brill Building Seeks Tenants", New York Times, 24 July 2013



ブリル・ビルディングは、音楽史において重要な役割を果たし、数々の名曲が生まれた伝説的な場所です。今もなお、その歴史は音楽ファンに語り継がれています。

もう一度検索