ポリュペイデース

ギリシア神話の世界には、しばしば同じ名前を持つ複数の人物が登場することがありますが、「ポリュペイデース」（古代ギリシア語では Πολυφείδης, Polypheidēs と表記され、長母音を省略してポリュペイデスとも呼ばれます）もそのような固有名詞の一つです。この名で特に知られている人物は二人おり、一人は優れた予言者としての才能に恵まれた人物、もう一人はペロポネソス半島の都市国家シキュオーンを統治した王として伝えられています。それぞれが異なる物語の中で、重要な役割を担っています。

本稿では、これら二人のポリュペイデースについて、それぞれの系譜と事績を詳しく解説します。

マンティオスの子、予言者ポリュペイデース

予言者ポリュペイデースは、ギリシア神話における高名な予言者の家系に連なる人物です。彼の祖父は、狂気を癒やす能力でも知られた偉大な予言者メラムプースです。父はマンティオス、兄弟にはクレイトスがいました。このポリュペイデースは、古代ギリシアの詩人ホメロスの叙事詩『オデュッセイア』にもその名が言及されており、彼の血筋が神話の世界の中で確かに位置づけられていることがわかります。

ポリュペイデース自身もまた、優れた予言者としての能力を開花させました。特に、彼の伯父にあたる偉大な予言者アムピアラーオスが世を去った後、彼は太陽神アポローンから特別な恩寵を受け、その時代の最も優れた予言者としての地位を継承することになりました。アポローンの加護を受けた彼の予言能力は、比類なきものだったと考えられます。神々との繋がりを持ち、未来を見通す力を持っていたのです。

しかし、ポリュペイデースは父マンティオスとの間に深い対立を抱えていました。その確執が原因で、彼は生まれ育った故郷を離れることを余儀なくされます。具体的な対立の原因は神話の中でも詳らかではありませんが、父子の間に和解しがたい溝があったのでしょう。

新たな移住先として彼が選んだのは、アカイア地方にあるヒュペレシアという土地でした。この地に移り住んだポリュペイデースは、そこで自身の授かった予言の業を決して私利私欲のためではなく、広く人々のために用いたと伝えられています。彼の予言は多くの人々を導き、助け、その知恵は広く求められたことでしょう。人々のためにその才能を捧げた予言者として、彼は記憶されています。彼の息子にはテオクリュメノスがいました。

シキュオーン王ポリュペイデース

もう一人のポリュペイデースは、ペロポネソス半島北部に位置する古代都市シキュオーンの王として歴史に名を残しています。彼はシキュオーン王国の歴代君主の中で、第24代目の王位に就いた人物です。

彼の治世において特に重要なエピソードとして語り継がれているのが、ミケーネの王子であった幼いアガメムノーンとメネラーオスの兄弟を保護した出来事です。当時、アガメムノーンとメネラーオスは、叔父であるテュエステースによって生命の危険に晒されていました。テュエステースは兄弟の父であるアトレウスと激しく対立しており、その敵意は幼い彼らにも向けられていたのです。このような危機的な状況にあった兄弟を、ポリュペイデース王は自らの庇護のもとに置きました。これは、将来アトレウス家の仇討ちを果たすことになるアガメムノーンたちの命を救う、歴史的に見て極めて重要な行動でした。

さらに王は、兄弟の安全をより確実にするため、彼らをアイトーリア地方の有力な王であったカリュドーンの王オイネウスのもとへと預けました。オイネウスのもとであれば、テュエステースの手から逃れ、安全に成長できると考えたのでしょう。ポリュペイデース王のこの賢明な決断により、アガメムノーンとメネラーオスは無事に成長し、やがて故郷ミケーネへと戻り、トロイア戦争をはじめとするギリシア世界における指導者としての道を歩むことになります。

結論

このように、「ポリュペイデース」という名前は、予言者としての霊感に優れ、人々のためにその能力を用いた人物と、王として未来の英雄たちを危険から救い出した人物という、それぞれ異なる、しかし神話の中で重要な役割を担った二人を指し示しています。両者はしばしば混同されることがありますが、物語上の系譜や行動を見れば、明確に区別されるべき存在です。これらのポリュペイデースたちの物語は、古代ギリシア神話の多様で豊かな世界観を構成する一端を担っています。

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