テノントサウルス

テノントサウルス：白亜紀前期の北米を歩いた大型植物食恐竜

テノントサウルス (Tenontosaurus) は、「腱のトカゲ」を意味する名を持つ、中型から大型の鳥脚類恐竜です。現在の北アメリカ西部にあたる地域で、約1億1500万年前から約1億800万年前に生息していました。かつてはヒプシロフォドン科に分類されていましたが、現在の分類では、イグアノドン類の中でも非常に原始的な種だと考えられています。

形態と特徴

テノントサウルスは全長6.5～8メートル、体高約3メートルに達し、体重は1～2トンと推定されています。二足歩行で、特筆すべきは、非常に長く幅広い尾です。この尾は、骨質の腱によって硬直しており、バランスをとったり、防御に役立っていたと考えられています。

発見と研究の歴史

テノントサウルスの化石は、1903年にモンタナ州で初めて発見されました。その後、1930～40年代にかけて、同地域で大規模な発掘調査が行われ、多数の化石標本が収集されました。バーナム・ブラウンは、これらの化石を「腱のトカゲ」を意味するTenantosaurusと非公式に命名しましたが、正式な記載は1970年、ジョン・オストロムによって行われました。オストロムは、モンタナ州とワイオミング州における大規模な発掘調査で得られた40以上の標本を基に、Tenontosaurusという学名を正式に発表しました。

その後も、クローバリー層をはじめ、オクラホマ州、テキサス州、アイダホ州、ユタ州、メリーランド州などから多くの化石が発見され、テノントサウルスの分布の広さが明らかになってきました。現在では、Tenontosaurus tillettiとTenontosaurus dossiの2種が知られています。

生息環境と生態系

テノントサウルスが生息していたモンタナ州とワイオミング州のクローバリー層は、初期アルビアン期には砂漠から半砂漠気候でしたが、その後、降水量が増加し、亜熱帯から熱帯気候へと変化していきました。この気候変動の中で、テノントサウルスの個体数は増加傾向を示しており、環境変化への高い適応能力を持っていたことが示唆されます。

クローバリー層では、テノントサウルスは最も一般的な脊椎動物でした。乾燥した環境では、唯一の草食恐竜であり、デイノニクスなどの捕食者と共存していました。気候が変化し、より湿潤な環境になると、他の恐竜もこの地域に現れました。これらの恐竜には、ゼフィロサウルス、ミクロヴェナトル、ティタノサウルス形類の竜脚類、オルニトミムス科などがあります。

オクラホマ州のアントラーズ層からもテノントサウルスの化石が発見されています。この層は、熱帯または亜熱帯の森林、氾濫原、三角州などの環境であったと推定されています。ここには、アクロカントサウルスなどの大型肉食恐竜や、他の様々な動物が生息していました。

食性

テノントサウルスのいた頃の植物相は、シダ、木性シダ、ソテツ類が中心で、初期の被子植物もあった可能性があります。テノントサウルスは、低層の植物を食べるブラウザー(良質選択食者)であり、高さ約3メートルの植物まで届いたと考えられています。U字型のくちばしと、傾斜した切断面を持つ歯から、葉、木部、果実など、様々な植物を食べていた可能性が高いです。

捕食者

テノントサウルスの化石は、多くの場合、デイノニクスの化石と共に見つかります。デイノニクスは、テノントサウルスの主要な捕食者であった可能性があります。しかし、デイノニクスの成体はテノントサウルスの成体よりはるかに小さく、単独ではテノントサウルスの成体を狩ることが難しかったと考えられます。そのため、デイノニクスは集団で狩りをしていた可能性が示唆されています。一方で、幼体や死骸を漁っていたという説もあります。アクロカントサウルスなどの大型獣脚類も、テノントサウルスの捕食者であった可能性があります。

繁殖

テノントサウルスの大腿骨と脛骨には、骨髄骨組織が保存されています。これは、繁殖期の産卵する鳥類に見られる組織で、テノントサウルスも、比較的若い年齢で繁殖していたことを示唆しています。このことは、恐竜において、個体発生の早い段階で繁殖が始まっていた可能性を示しています。組織学的分析によると、テノントサウルスは幼少期に急速に成長し、成熟すると成長速度が低下したようです。

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