クロートー

クロートー：運命の糸を紡ぐ女神

クロートー（Κλωθώ）は、古代ギリシア神話における運命の三女神「モイライ」の一員であり、特に「紡ぐ者」を象徴します。彼女の名が示す通り、クロートーは人々の運命を「紡ぐ」役割を担い、その糸は個々の寿命を象徴します。日本語では長母音を省略して「クロト」と呼ばれることもありますが、いずれも同じ女神を指しています。彼女はローマ神話においては、ノーナ（Nona）に相当する存在とも見なされています。

モイライと運命

「モイラ」という言葉は、ギリシア語で「割り当て」という意味を持ち、特に人間に対して与えられる寿命や運命を指します。最初は一つの女神として考えられていましたが、次第に三人の女神、すなわちクロートー、ラケシス、アトロポスとして形成されました。ここで、クロートーが運命の糸を引き出し、紡ぐ機能を果たすのに対し、ラケシスはその運命を人間に割り当て、アトロポスはその糸を切る役割を担います。こうして、個々の寿命が決定されるのです。

この神話において、クロートーは運命の糸巻き棒を手に持ち、そこから運命の糸を紡ぎ出す姿が描かれています。彼女は人生の始まりや変化といった重要な瞬間に関与しており、その姿は人間の運命の流れを象徴しています。

クロートーの起源と家系

ヘーシオドスの記述において、クロートーを含むモイライはニュクス（夜の女神）の娘とされています。彼女たちは、ゼウスの妻テミスを通じて誕生したとも言われ、天秤を持つ正義の女神たちや、季節を司る女神ホーラーたちといった神々と関連付けられています。ピンダロスの作品では、クロートーとその姉妹たちが女神テミスの花嫁行列に参加する様子が描かれており、彼女たちが重要な役割を果たしていたことが窺えます。

クロートーの象徴と影響

プラトーンの著作『国家』では、クロートーが「現在」を司る神として描かれています。このように、彼女は単なる運命の守護者にとどまらず、人生のさまざまな局面において人々の選択や運命に関与する存在とされています。クロートーをテーマにした文学やアートは数多く、彼女の象徴する運命の扱いは西洋思想において深い影響を与えてきました。

神話の中での彼女の役割は、人生の不確実性や運命の重みを示しており、モイライたちを通じて人間の存在や人生の意味に対する根源的な問いかけを与えているのです。

参考文献

• - ヘーシオドス『神統記』廣川洋一訳、岩波文庫（1984年）
• - 高津春繁『ギリシア・ローマ神話辞典』、岩波書店（1960年）
• - フェリックス・ギラン『ギリシア神話』中島健訳、青土社（1991年）

関連項目

• - モイライ
• - ニュクス
• - テミス
• - ホーライ
• - クロト (小惑星)

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