テミスト (衛星)

木星の衛星 テミスト (Jupiter XVIII)

テミストは、巨大惑星木星の周りを公転する衛星の一つです。正式な確定番号はJupiter XVIIIとされており、その軌道は木星の自転と同じ向きに周回する順行軌道ですが、他の主要な衛星群に属さない不規則衛星として分類されています。テミストの最も特筆すべき点は、その発見から再確認に至るまでの非常にユニークな経緯にあります。一度観測された後にその位置が分からなくなり、長い年月を経てから再び発見されたという、天体としては稀な歴史を持っています。

発見から再発見へ

この衛星が初めて観測されたのは1975年7月30日、天文学者のチャールズ・コーワル氏とエリザベス・レーマー氏によるものでした。彼らはパロマー天文台の122cmシュミット式望遠鏡を用いてこの天体を捉え、同年10月3日に発見が報告され、「S/1975 J1」という仮符号が付与されました。しかし、その後の追跡に必要な十分な観測データを得られなかったため、テミストは残念ながら間もなく見失われてしまいました。その存在は、しばらくの間、天文学の教科書で簡単な脚注として記されるにとどまりました。

それから四半世紀が経過した2000年、スコット・S・シェパード氏、デービッド・C・ジューイット氏らのチームが、新たに木星の衛星と思われる天体を発見しました。この天体には「S/2000 J1」という仮符号が与えられましたが、すぐに詳しい軌道計算が行われ、それが1975年に観測されたS/1975 J1、すなわちテミストと同一の天体であることが確認されました。シェパード氏らの発見は、ブレット・J・グラッドマン氏らのチームがほぼ同時期に行っていた観測データとも関連付けられ、テミストの存在が揺るぎないものとなったのです。

失われた衛星の再発見という劇的な展開を経て、テミストは2002年10月に正式な固有名を与えられました。この名は、ギリシャ神話に登場する主神ゼウスの愛の一人、テミストーにちなんで名付けられています。

独特な軌道

テミストは順行軌道を描く不規則衛星ですが、その軌道は木星の衛星系の中で孤立した位置を占めています。通常、順行軌道の不規則衛星としてはヒマリア群がありますが、テミストの軌道はガリレオ衛星とヒマリア群の中間付近に位置しており、どの既知の衛星グループにも分類されません。2006年時点でのデータによると、木星からの平均距離は約740万キロメートルで、公転周期は約130日です。軌道の離心率は0.2006であり、やや楕円形の軌道を周回しています。このような軌道特性を持つ他の衛星は、現在のところ見つかっていません。

物理的特徴

テミストは比較的小さな衛星であり、その直径は表面のアルベド（反射率）を0.04と仮定した場合、約8キロメートルと推定されています。密度は2.6 g/cm³と見積もられており、これは岩石質の組成を示唆しています。したがって、テミストは主にケイ酸塩岩のような物質で構成されていると考えられています。

テミストの表面は非常に暗く、地球から見た見かけの等級は約21等級と極めて低い値です。2003年にはジェミニ北望遠鏡を用いて赤外線による観測が行われ、その表面物質のスペクトルが詳しく解析されました。この結果、テミストのスペクトル特性は、P型小惑星に分類される天体と類似していることが判明しました。P型小惑星は太陽系形成初期の物質を比較的多く保持していると考えられており、テミストがどのように形成され、木星の重力によって捕獲されたのかを探る上で、重要な情報を提供しています。

まとめ

一度は行方不明となりながらも再発見された特異な歴史、そして既存のどのグループにも属さない独自の順行軌道を持つテミストは、木星の衛星の中でも特に興味深い存在です。その小惑星に似た物理的特徴と孤立した軌道は、木星系外縁部のダイナミクスや衛星の捕獲メカニズムについて理解を深める上で、貴重な研究対象となっています。

もう一度検索