テルモプロテウス目

テルモプロテウス目 (Thermoproteales)

テルモプロテウス目は、古細菌ドメイン、クレン古細菌門、テルモプロテウス綱に分類される微生物のグループ（目）です。その最大の特徴は、極めて高温の環境を好む好熱性と、硫黄が豊富に存在する環境への適応です。

形態と生息環境

本目に属する微生物の多くは、長径が2マイクロメートルから10マイクロメートルほどの細長い棒状の形をしています。桿菌と呼ばれる形態ですが、細菌ではなく古細菌です。彼らは主に、硫黄成分に富んだ陸上の熱水系、例えば硫黄泉や熱水噴出孔などに生息しています。温泉地帯だけでなく、地熱発電所や鉱山からも発見された例があります。

生育条件と代謝

テルモプロテウス目の微生物が活発に増殖できる温度範囲は非常に広く、およそ70℃から104℃に及びます。pHに関しては、中性またはやや酸性の環境を好む傾向があります。

エネルギーを獲得するための代謝経路としては、大半の種が嫌気的条件下で硫黄を還元し、水素や有機物を生成・利用することで生育します。これは、彼らが硫黄が豊富な熱水環境に適応している証拠と言えます。しかし、全ての種が硫黄還元に依存しているわけではありません。例えば、Pyrobaculum aerophilumという種は、例外的に硝酸塩や酸素を利用して生育することが知られており、このグループ内の代謝的多様性を示しています。

細胞生物学的特徴

テルモプロテウス目は、細胞レベルでもいくつかの独特な特徴を持っています。

ヒストン様タンパク質

一般的に、好熱性のクレン古細菌は、真核生物のDNAパッケージングに関わるタンパク質であるヒストンを持たないとされてきました。しかし、テルモプロテウス目については、これまでに全ゲノムが解読された4つの属のうち、3つの属からヒストンと相同性のある遺伝子が見つかっており、DNAの折りたたみに関与している可能性が示唆されています。

細胞分裂様式

多くの原核生物が単純な二分裂によって増殖するのに対し、テルモプロテウス目の一部の種は出芽と呼ばれる方法で細胞分裂を行います。これは、親細胞の表面から小さな突起（芽）が生じ、それが成長して娘細胞となる分裂様式であり、クレン古細菌の中でも独特な特徴の一つです。

細胞分裂機構

細胞分裂のメカニズムに関しても、テルモプロテウス目は他の微生物とは異なる点が注目されています。

多くの原核生物の細胞分裂に必須とされるFtsZやMinといったタンパク質は、テルモプロテウス目からは発見されていません。
また、テルモプロテウス目以外のクレン古細菌やタウムアーキオータが細胞分裂に利用するとされるESCRTシステムに関連する遺伝子も、現在のところ見つかっていません。
一方で、細胞の形や運動に関わるアクチンに似たタンパク質の存在が確認されており、これが細胞分裂に関与しているのではないかと予想されています。この発見は、原核生物における細胞分裂機構の多様性を示す重要な知見です。

下位分類

テルモプロテウス目には、主に以下の科と属が含まれます。

テルモプロテウス科 (Thermoproteaceae)
Thermoproteus
Caldivirga
Pyrobaculum
Thermocladium
Vulcanisaeta
テルモフィルム科 (Thermofilaceae)
Thermofilum*

これらの属は、形態、生理機能、生息環境、遺伝学的特徴などに基づいて分類されています。本目の分類に関する研究は、16S rRNA遺伝子配列データなどに基づいて進められています。

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