テンジクネズミ科

テンジクネズミ科 Caviidae

齧歯目（げっしもく）に属するテンジクネズミ科は、主に南アメリカ大陸およびパナマの一部地域に生息する哺乳類の一群です。この科には、私たちがよく知るモルモットや、世界最大の齧歯類であるカピバラなど、バラエティ豊かな動物たちが含まれています。

分布

生息域は南アメリカ大陸に広がり、アンデス山脈の山岳地帯から草原、乾燥したチャコ、湿地帯、森林など、非常に多様な環境に適応しています。一部の種は中米のパナマにも分布が見られます。

形態的特徴

テンジクネズミ科の動物は、その大きさが種によって大きく異なります。最大種であるカピバラは、体長が106〜134センチメートル、体重が35〜66キログラムにも達し、現生の齧歯類の中では比類なき大きさを誇ります。一方で、ヤマクイ属の仲間などは体長が約22センチメートル、体重が約0.3キログラムと非常に小型です。

形態的な特徴としては、カピバラ亜科とテンジクネズミ亜科の多くの種では尾が非常に短いか、あるいはほとんど存在しない点が挙げられます。歯は上下合わせて20本で、それぞれ2本の門歯、2本の臼歯、6本の大臼歯から構成されます。前肢には4本の指があり、後肢には3本の趾があります。この指と趾の数の構成は、本グループの識別の手がかりとなります。

分類

テンジクネズミ科の分類は、かつてカピバラを独立した科（カピバラ科 Hydrochoeridae）とする説が存在したこともあります。しかし、2002年に発表された遺伝子解析（GHR遺伝子、TTF遺伝子、ミトコンドリアDNAなどを用いた分子系統解析）の結果、カピバラ属がモコ属と近縁であり、テンジクネズミ科の内部に含まれることが示されました。この分子系統解析に基づく知見により、現在ではカピバラ属も含めた全ての種をテンジクネズミ科に含める分類が有力な見解となっています。

テンジクネズミ科は、主に以下の3つの亜科に分けられます。

テンジクネズミ亜科 Caviinae

テンジクネズミ属 Cavia**
Cavia aperea (パンパステンジクネズミ / Brazilian guinea pig)
Cavia fulgida (アマゾンテンジクネズミ / Shiny guinea pig)
Cavia intermedia (サンタカタリーナテンジクネズミ / Moleques do Sul guinea pig)
Cavia magna (オオテンジクネズミ / Greater guinea pig)
Cavia porcellus (モルモット / Domesticated guinea pig)
Cavia tschudii (ペルーテンジクネズミ / Montane guinea pig)
*クイ属 Galea**
Galea flavidens (ブラジルクイ / Brazilian yellow-toothed cavy)
Galea musteloides (クイ / Common yellow-toothed cavy)
Galea spixii (スピックスクイ / Spix's yellow-toothed cavy)
ヤマクイ属 Microcavia**
Microcavia australis (ミナミヤマクイ / Southern mountain cavy)　
Microcavia niata (アンデスヤマクイ / Andean mountain cavy)
Microcavia shiptoni (シプトンヤマクイ / Shipton's mountain cavy)

マーラ亜科 Dolichotinae

マーラ属 Dolichotis**
Dolichotis patagonum (マーラ / Patagonian mara)
Dolichotis salinicolum (ヒメマーラ / Chacoan mara)

カピバラ亜科 Hydrochoerinae

*カピバラ属 Hydrochoerus**
Hydrochoerus hydrochaeris (カピバラ / Capybara)
Hydrochoerus isthmius (ヒメカピバラ / Lesser capybara)
*モコ属 Kerodon**
Kerodon acrobata (トウハンモコ / Climbing Cavy)
Kerodon rupestris* (モコ / Rock cavy)

生態

テンジクネズミ科の動物は、生息する環境が非常に多様です。草原、砂漠、森林、湿地帯など、様々な環境に適応した種が存在します。食性は全ての種が植物食であり、主に植物の茎、葉、果実などを摂取します。

繁殖様式は胎生で、メスは子どもを産んで育てます。多くの種では生後1〜3ヶ月程度で性的に成熟しますが、大型のカピバラの場合は性成熟に約18ヶ月を要します。生まれたばかりの子どもは比較的早くから親と同様の活動ができる早成性（そうせいせい）の特徴を持っています。

人間との関係

テンジクネズミ科の動物は、古くから人間と様々な形で関わってきました。南米の一部の地域では、伝統的に食料として利用されており、特にエクアドルやペルーなどでは、モルモット（現地でクイと呼ばれることもあります）の丸焼きが重要な郷土料理の一つとして知られています。

モルモットは、古代インカ帝国において既に家畜化されていた長い歴史を持ちます。近代以降は、科学研究の分野で実験動物としても広く利用され、医学や生物学の発展に貢献してきました。また、そのおとなしい性質と愛らしい外見から、世界中でペットとしても人気があり、多くの人々に親しまれています。このように、テンジクネズミ科の動物は、食料、科学研究、そして伴侶動物として、人間にとって身近な存在となっています。

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