ディエゴ喜斎

ディエゴ喜斎（市川喜佐衛門）の生涯

ディエゴ喜斎、俗名市川喜佐衛門は、天文3年（1534年）に備前国津高郡馬屋郷芳賀村（現在の岡山県岡山市北区芳賀）で生まれました。幼少の頃から温厚で謙虚な人柄で、多くの人に慕われていたと伝えられています。彼の故郷は山陽道が通り、古くから商業が盛んで、新しいものを受け入れやすい土地柄でした。そのため、キリスト教も比較的早くから地域に浸透しており、喜佐衛門がキリスト教に親しむ下地となったと考えられています。

青年になった喜佐衛門は、大阪の商家で奉公した後、独立して商人として成功を収めます。その傍らでイエズス会の活動に積極的に参加し、教会での雑務や伝道活動の支援に尽力しました。しかし、豊臣秀吉によるキリシタン禁教令により、大阪の教会で捕縛され、京都に送られて市中引き回しに遭いました。

その後、長崎での磔刑判決を受け、故郷を後にした喜佐衛門は、長崎へ向かう道中で密かに故郷に別れを告げました。慶長2年12月19日（1597年2月5日）、告解のために訪れたフランシスコ・パシオ神父によってイエズス会への入会を許され、正式な信徒として長崎の西坂で磔刑に処せられ、殉教しました。享年64歳。処刑された信徒や宣教師の中では最年長でした。

殉教後の足跡

処刑後、二十六聖人の遺体は海外へ持ち出され、聖遺物として世界各地に送られました。喜佐衛門の遺体も同様の運命を辿ったと考えられています。喜佐衛門の死を悼んだ故郷の人々は、キリシタンであるために表立って弔うことができず、遺体も戻らなかったため、密かに菩提を弔うことになりました。その際、地元信仰の対象であった「亀岩」を「天主岩」と呼び、喜佐衛門の魂を慰めました。これは、喜佐衛門の信仰を地域の信仰に結びつけることで、時の権力者の目を逃れつつ、彼を弔うための方策でした。喜佐衛門は、故郷の人々によって、名前を明かすことなく、地域の人々の絆の中でひっそりと弔われ続けました。

一方、喜佐衛門を含む日本二十六聖人は、1627年に列福され、1862年には列聖され、カトリック教会の聖人「ディエゴ喜斎」として認められました。そして、喜佐衛門が処刑された時代から長い年月を経た1958年、地元有志によって「天主岩」に「市川喜佐衛門の墓」の碑が建てられました。これにより、人々は公然と喜佐衛門を偲ぶことができるようになりました。また、1997年には、墓の周辺が「聖ディエゴ喜斎記念公園」として整備されました。さらに、岡山カトリック教会は、新築された聖堂を聖ディエゴ喜斎に捧げ、彼を守護聖人としています。

ゆかりの地

ディエゴ喜斎に捧げられた教会
岡山カトリック教会・聖ディエゴ喜斎記念聖堂（岡山県岡山市北区天神町）

墓地・公園
聖ディエゴ喜斎記念公園：地元地域およびカトリック信徒の有志によって整備された小規模な公園です。
市川喜佐衛門の墓：地元で「天主岩」と呼ばれていた亀石の上に建てられた墓碑です。

その他

ディエゴ喜斎を演じた俳優：尾上卯多五郎（映画「殉教血史 日本二十六聖人」で、役名はヤコボ備前屋喜左衛門）

喜斎は、その生涯を通じて信仰を貫き、故郷の人々に愛された人物として、今日でも深く敬われています。

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