ディエンビエンフーの戦い

ディエンビエンフーの戦い：インドシナの命運を分けた激戦

ディエンビエンフーの戦い（1954年3月～5月）は、第一次インドシナ戦争における最大の戦闘であり、フランス植民地支配からの独立を目指すベトミン軍と、フランス軍との間で繰り広げられました。この戦いは、ベトナムの歴史だけでなく、その後の国際政治にも大きな影響を与えました。

戦いの背景

第二次世界大戦後、フランスはインドシナ半島での植民地支配を再開しようとしましたが、ベトミンを中心とする独立運動に直面しました。1953年までにフランス軍は劣勢となり、ベトミン軍も兵站上の問題を抱えていました。そこでフランス軍は、ベトミン軍を遠隔地に誘い込み、補給面での優位性を活かして撃滅する計画を立てました。その舞台として選ばれたのが、北西部の山岳地帯にあるディエンビエンフーでした。

フランス軍の作戦と誤算

ディエンビエンフーには、旧日本軍が設営した飛行場跡があり、空挺部隊の派遣と航空輸送による補給が可能でした。フランス軍は、この地を拠点にラオスへ進出する計画を立てましたが、この作戦にはいくつかの誤算がありました。

地形の過信: ディエンビエンフーは盆地であり、フランス軍は稜線からの火制で有利に戦えると考えていましたが、ベトミン軍は重火器を山頂に運び込み、要塞を見下ろす位置から攻撃しました。
兵站の過信: フランス軍は航空輸送による補給を期待しましたが、ベトミン軍の包囲によって滑走路が使用不能となり、補給は困難を極めました。
ベトミン軍の過小評価: フランス軍はベトミン軍の補給能力を低く見積もっていましたが、ベトミン軍は自転車や人力による輸送を駆使し、大量の武器弾薬を運び込みました。

1953年11月20日、フランス軍はカストール作戦を発動し、空挺部隊をディエンビエンフーに降下させました。その後、1万6千人もの兵力が投入され、要塞の構築も進められましたが、ベトミン軍は着々と包囲網を形成していきました。

ベトミン軍の戦略と勝利

ベトミン軍の指導者であるヴォー・グエン・ザップは、フランス軍の動きを予測し、迅速に対応しました。ザップは、ディエンビエンフーが会戦の地になると判断し、周囲の山岳地帯に部隊を集結させました。ベトミン軍は、ソ連と中国からの支援を受け、大量の武器と弾薬を確保しました。

1954年1月31日、ベトミン軍は散発的な砲撃を開始し、3月13日には本格的な包囲戦が始まりました。フランス軍の陣地は次々と陥落し、滑走路も破壊され、物資の補給が途絶えました。泥沼の中での戦いを強いられたフランス軍は、植民地出身兵士を中心に戦意を喪失し、5月7日に要塞は陥落しました。

戦いの結果と影響

ディエンビエンフーの戦いでのフランス軍の敗北は、インドシナにおけるフランス植民地支配の終焉を決定づけました。この戦いの結果は、ジュネーヴ和平会談に大きな影響を与え、1954年7月21日にジュネーヴ協定が締結され、フランスはインドシナから撤退しました。

しかし、この戦いは新たな紛争の火種ともなりました。ジュネーヴ協定では、ベトナムは北緯17度線で南北に分断され、アメリカが南ベトナムを支援し、ベトナム戦争へと発展していきました。

戦闘序列

ベトナム人民軍

第308師団
第312師団
第316師団
第351師団
第148独立歩兵連隊
その他

フランス連合軍

外人部隊
空挺部隊
砲兵部隊
その他

その後のベトナム

ベトミンを率いたベトナム共産党政府は、毎年5月7日を戦勝記念日としています。2024年5月7日には70周年式典が開かれ、支援国であった中国、ラオス、カンボジアが代表を派遣しました。

ディエンビエンフーの戦いは、ベトナムの独立だけでなく、その後のベトナム戦争、ひいては冷戦構造にも影響を与えた重要な戦いでした。この戦いは、弱小な勢力が、優れた戦略と不屈の精神で大国に勝利することができることを示しました。

映画

ベトナム：1965年 ソビエト連邦 ロマン・カルメン監督
愛と戦火の大地：1992年 フランス
インドシナ激戦史1954 〜要塞ディエン・ビエン〜：2004年 ベトナム

参考文献

* 田中賢一『現代の空挺作戦 世界のエアボーン部隊』原書房〈メカニックブックス（11）〉、1986年2月。ISBN 978-4-5620-1701-0。

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