ディザイアー (U2の曲)

ディザイアー (Desire)

『ディザイアー』は、アイルランド出身のロックバンド、U2が1988年に発表した楽曲です。彼らのアルバムであり、同名のドキュメンタリー映画のサウンドトラックでもある『魂の叫び（Rattle and Hum）』に収録されました。この楽曲はシングルカットされ、U2にとって初めて全英シングルチャートで第1位を獲得するという、キャリアにおける重要なマイルストーンとなりました。

楽曲制作の背景

この楽曲は、U2のシングルのB面曲を数多く手がけてきたアイルランド人プロデューサー、ポール・バレットと共に、ダブリンのSTSスタジオで制作されました。このレコーディングセッションでは、『ディザイアー』だけでなく、後にシングルのカップリングとして収録されることになる「アンチェインド・メロディ」、「エヴァーラスティング・ラヴ」、「ダンシング・ベアフット」、「フォーチュネイト・サン」、「ペイント・イット・ブラック」といったカバー曲も一緒に録音されました。

『ディザイアー』は、シンプルかつ力強いロックサウンドが特徴で、バンドが初期のロックンロールのルーツに立ち返る意図が感じられます。歌詞においては、成功して大きな存在になりたいというバンド自身の率直な願望が歌われています。そのリズムパターンはしばしばボ・ディドリー風と形容されますが、これはボ・ディドリーから直接影響を受けたというよりは、ザ・ストゥージズの楽曲「1969」を経由したものであるとされています。

ミュージックビデオ

楽曲のミュージックビデオは、オーストラリアの映像作家リチャード・ロウェンスタインが監督しました。ロウェンスタインは、ボノの親友であったマイケル・ハッチェンスがボーカルを務めるバンドINXSのビデオを多数制作した経験があります。このビデオは、1988年9月9日にロサンゼルスのダウンタウンで撮影されました。特定のストーリーがあるわけではなく、ロサンゼルスの街並みや人々の様子を様々なアングルから捉えた、ドキュメンタリータッチの映像作品として構成されています。

ライブパフォーマンス

『ディザイアー』は、発表以来、U2のライブで頻繁に演奏されてきました。特に「Zoo TVツアー」では、ボノが「ミラーマン」あるいは「マクフィスト」というキャラクターに扮してこの曲を披露し、ステージを盛り上げました。「Popmartツアー」ではアコースティックバージョンが演奏されるなど、時期によって様々なアレンジで披露されました。「Elevationツアー」では再びエレクトリックバージョンに戻されましたが、「Vertigoツアー」や「360度ツアー」ではセットリストから外れることが多くなりました。しかし、「Innocence + Experienceツアー（I&Eツアー）」で再びセットリストに復活し、ファンを喜ばせました。

シングルのB面曲

『ディザイアー』のシングルには、カップリング曲として以下の楽曲が収録されました。

Hallelujah (Here She Comes)
ゴスペルロックの要素を取り入れた、軽快ながらもどこか物悲しい雰囲気を持つ佳曲です。しかし、アルバム『魂の叫び』全体の方向性にはそぐわないと判断され、B面曲となりました。驚くべきことに、この曲は現在に至るまでU2のライブで一度も演奏されたことがありません。

Desire (Hollywood remix)
このリミックスバージョンには、ニュースの音声がサンプリングされています。これは、ブライアン・イーノとデヴィッド・バーンの1981年のアルバム『マイ・ライフ・イン・ザ・ブッシュ・オブ・ゴースツ』に代表される、当時の音楽シーンで流行していた手法の影響を受けたものです。このリミックスは、U2の音楽性が『ヨシュア・トゥリー』や『魂の叫び』といったルーツロック志向の時期から、『アクトン・ベイビー』以降のより実験的でインダストリアルなサウンドへと変化していく過程を繋ぐ作品として評価されることがあります。一般的には、ラブタウン・ツアー終了後にボノとエッジがインダストリアル・ミュージックに影響を受けたとされていますが、アルバムとほぼ同時期にリリースされたシングルにこのようなリミックスが収録されていることは、『魂の叫び』のレコーディング段階で既に新しいサウンドへの関心があったのではないかという推測を生んでいます。

受賞と評価

『ディザイアー』はリリース後、高い評価を獲得しました。音楽メディアの年間ベストリストに多数ランクインし、特にローリングストーン誌の読者投票では年間ベストシングル第1位に輝きました。

イヤーオブ（発表年）の評価
ホットプレス年間ベストシングル 第4位 (1988年)
ホットプレス読者が選ぶ年間ベストアイリッシュシングル 第2位 (1988年)
ローリングストーン読者が選ぶ年間ベストシングル 第1位 (1988年)

さらに、この楽曲は1989年のグラミー賞において、「最優秀ロック・パフォーマンス デュオ/グループ」を受賞するという快挙を成し遂げました。

オールタイムでの評価
ガーディアン紙が選ぶ「誰もが知っている曲1000」に選出 (2009年)
* Qマガジンが選ぶ「ベストソング1001」の第675位にランクイン (2012年)

『ディザイアー』は、U2が世界的なバンドとしての地位を確立した時期に発表され、商業的成功と音楽的評価の両方を手にした代表的な楽曲の一つと言えるでしょう。

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