ディック・タイガー

ディック・タイガー、本名リチャード・イヘツは、1929年 8月14日にナイジェリアで生まれ、1971年 12月15日にこの世を去った伝説的なプロボクサーです。ミドル級とライトヘビー級という異なる二つの階級でWBAおよびWBCの世界統一王座を獲得した彼は、ナイジェリア人として初めて世界王者となり、さらに初めての二階級制覇を達成した歴史的人物です。

キャリア初期：母国からイギリスへ

1952年1月1日にプロデビューを飾り、2回KO勝利という鮮烈なスタートを切ったタイガーは、1955年までのキャリア初期を母国ナイジェリアで過ごしました。その後、彼の才能に目を留めたイギリスのプロモーターの誘いを受け、1955年に活動の拠点をイギリスのリヴァプールに移します。しかし、異国のリングでのスタートは順風満帆ではありませんでした。移住直後、彼はキャリア初の4連敗を喫するなど、厳しい試練に直面します。しかし、不屈の闘志でこの困難を乗り越え、徐々に復調。イギリス国内で強豪を相手に勝利を重ね、再びその実力を証明していきました。

ニューヨークへ、そして世界王座への挑戦

1959年、タイガーはさらなる高みを目指し、ボクシングの本場であるアメリカ合衆国、ニューヨークへと拠点を移します。この地で彼は、後に何度も拳を交えることになるジョーイ・ジャーデロといった強豪と対戦し、世界のトップレベルでの戦いを経験しました。アメリカでの経験を積み重ねたタイガーは、1960年11月、ウィルフ・グレーブスとの再戦をTKOで制し、コモンウェルス・ミドル級王座を獲得。念願のタイトルを手に入れ、世界王座挑戦への足がかりを掴みました。

ミドル級での栄光と激闘

1962年10月、タイガーはサンフランシスコでWBA世界ミドル級王座決定戦に臨み、強敵ジーン・フルマーを15回判定で破り、遂にナイジェリア人初のプロボクシング世界王者となりました。フルマーとの再戦は引き分けで王座防衛に成功。さらに1963年8月には、母国での凱旋試合として行われたフルマーとの3度目の対戦でWBC王座も獲得し、ミドル級の統一王者となります。しかし、同年12月には因縁の相手、ジョーイ・ジャーデロとの3度目の対戦で判定負けを喫し、一度は王座から陥落しました。

王座奪還、そして新たな階級へ

王座を失ったタイガーでしたが、再び世界の頂点を目指し、ドン・フルマーやルービン・カーターといった実力者を相手に勝利を重ね、復活の機会を伺います。そして1965年10月、マディソン・スクエア・ガーデンでWBA・WBC統一王者となっていたジョーイ・ジャーデロと4度目となる宿命の対戦が行われました。この激戦を判定で制したタイガーは、約2年ぶりにミドル級世界王座への返り咲きを果たし、その不屈の精神を示しました。王座再獲得後もピーター・ムエラートのようなベテラン選手をKOで下すなど強さを見せましたが、1966年4月にはエミール・グリフィスに判定で敗れ、再び王座を手放します。

ライトヘビー級制覇とキャリア終盤

ミドル級での激戦を経て、タイガーは階級を一つ上げ、ライトヘビー級へと挑戦の場を移します。同年12月には、WBA・WBC世界ライトヘビー級統一王者だったホセ・トーレスに挑み、判定勝利を収めて二階級制覇という偉業を達成。ナイジェリアボクシング界に新たな歴史を刻みました。ライトヘビー級王座を2度防衛しましたが、1968年5月、ボブ・フォスターとの対戦でキャリア初のKO負けを喫し、王座から陥落しました。王座陥落後も彼は現役を続け、ニノ・ベンベヌチといった後の名王者とも対戦しました。1970年7月、エミール・グリフィスとの再戦が彼のプロボクサーとしての最終試合となり、この試合での判定負けをもってグローブを置きました。

引退後の早世と死後の顕彰

リングを降りたタイガーは、ニューヨークのメトロポリタン美術館で警備員として静かに生活していましたが、まもなく深刻な病魔に襲われます。肝臓癌であることが判明し、懸命な闘病もむなしく、1971年 12月15日、引退からわずか1年5ヶ月後、42歳というあまりにも早い生涯を閉じました。

しかし、彼の輝かしい功績は死後に改めて称えられました。大英帝国勲章を受章したほか、1991年にはアフリカ大陸出身のボクサーとして初めて、国際ボクシング名誉の殿堂入りを果たしました。ディック・タイガーは、その粘り強いファイトスタイルと不屈の精神、そしてナイジェリアボクシング界に偉大な足跡を残したパイオニアとして、今なお多くの人々の記憶に残る伝説のボクサーです。

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