ディヴァン (詩集)

ディヴァンは、ペルシア語に起源を持つ言葉で、アラブ世界を含む地域で広く用いられてきました。主に個人の詩を集めた詩集を指し、特に長編詩（Mathnawi）は含まれません。

有名な例として、14世紀ペルシアの詩人ハーフェズによる『ディヴァン・イ・ハーフィズ』や、18～19世紀に活躍したインドの詩人ミール・タキー・ミールによる『ディヴァン・エ・ミール』などが挙げられます。これらの詩集は、それぞれの言語（ペルシア語、ウルドゥー語）で書かれ、豊かな文化的背景を反映しています。

この言葉は、ヨーロッパにも伝わり、ドイツ語や英語などでも使用されるようになりました。特に、ドイツの文豪ゲーテは、ハーフェズの詩に深く感銘を受け、自身の作品『西東詩集』（West-östlicher Divan）の原題に「ディヴァン」という言葉を採用しました。これは、東西の文化交流を示す象徴的な出来事と言えるでしょう。

興味深いことに、「ディヴァン」という言葉は、詩集以外にも異なる意味を持っています。ペルシアやアラブの国々では、「庁」や「局」といった行政機関、またはその長官を指す言葉としても用いられてきました。さらに、もともと床に敷かれていたマットレスが、ヨーロッパでソファの一種として流行した「ディヴァン（家具）」も存在します。

これらの異なる意味合いは、歴史的な背景によって繋がっています。行政機関としての「ディヴァン」は、多くの書類が保管される場所であり、長官の事務所には家具としての「ディヴァン」が置かれていたことが、その語源に影響を与えていると考えられます。

このように、「ディヴァン」は、詩集、行政機関、家具という、一見すると関連性の薄い複数の意味を持つ多義的な言葉です。その背景には、ペルシア語圏の文化、東西の文化交流、そして人々の生活様式が複雑に絡み合っています。

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