西東詩集

西東詩集

『西東詩集』（せいとうししゅう、原題：West-östlicher Divan）は、ドイツの文豪ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテが1819年に発表した詩集であり、彼の代表作の一つとされています。

晩年のゲーテは、東洋、特にオリエント文化への強い憧れを抱き、クルアーンやペルシャの詩人ハーフェズの作品に親しんでいました。1814年にハーフェズの詩集がドイツ語に翻訳されると、ゲーテはその影響を強く受け、ハーフェズへの敬愛、東洋への憧憬、そして人間の自然な姿や文明に染まらない世界への想いを詩に込めました。

『西東詩集』というタイトルは、ドイツ語の原題にペルシャ語で詩集を意味する「ディヴァン」が用いられていることからも、ゲーテの東洋への深い関心がうかがえます。70歳という高齢でこの詩集を刊行したことは、ゲーテが長年の思索の末にたどり着いた思想の集大成であると言えるでしょう。詩集には、内的経験から生まれた文学観、汎神論的な宗教観、そして自然探求から得た宇宙観が色濃く反映されています。

当時のゲーテの恋人であったマリアンネとの詩的な愛情も、『西東詩集』の重要な要素です。マリアンネをズライカ、ゲーテ自身をハーテムとして描いた相聞歌は、「ズライカの書」に収められており、二人の関係を物語っています。

『西東詩集』の中でも特に有名な詩の一つに、「昇天のあこがれ」（原題：Selige Sehnsucht）があります。この詩は、炎に飛び込み自らを焼いてしまう蛾を題材に、「死ね、そして生まれよ」という言葉で恋愛や人生の真理を謳っています。「詩人の書」に収められたこの詩は、ゲーテの詩の中でも最高傑作との呼び声も高く、多くの人々に感銘を与え続けています。

参考文献

菊池栄一註釋『研究社獨逸文學叢書（3）西東詩集』研究社、1953年4月
『西東詩集　翻訳と注釈』平井俊夫 訳、郁文堂、1989年
『ゲーテ詩集』 井上正蔵訳、白鳳社、1965年
『西東詩集』 小牧健夫訳、岩波文庫、1962年、復刊1987年ほか
『西東詩集ほか　ゲーテ全集 第2巻』 生野幸吉訳・解説　潮出版社、1981年、新装版2003年

関連項目

ウェスト＝イースタン・ディヴァン管弦楽団 - 『西東詩集』が楽団名の由来となっています。

もう一度検索