デイムラー・DS420

デイムラーDS420：英国が誇る伝統と格式の高級リムジン

デイムラーDS420は、1968年から1992年という長きに渡り、イギリスの高級車メーカー、デイムラーによって製造された4ドアリムジンです。同社のフラッグシップモデルとして君臨し、その伝統と格式は、英国王室をはじめとする多くのVIPに愛用された歴史に裏付けられています。

ジャガーの技術を基盤に、英国職人の技が光る

DS420は、ジャガー・マークXのプラットフォームを流用することで、優れた走行性能と信頼性を確保。しかしながら、ボディはデイムラー専用に設計され、コーチワークは名門バンデン・プラが担当しました。そのため、ジャガーとは異なる、より重厚で風格のある独自の佇まいを確立しています。初期モデルではプレスト・スチール・カンパニー製のボディパネルをベースに製造されていましたが、バンデン・プラの操業停止後は、ジャガーのブラウンズ・レーン工場で熟練の職人によるほぼ手作りの工程で生産されました。このことは、DS420の希少性と高級感をさらに高める要因となっています。

強力なエンジンと豪華な装備

搭載されたエンジンは、ジャガー製のDOHC直列6気筒XKエンジン。最高出力245馬力を発揮し、重量級のボディを力強く加速させます。最高速度は176km/hに達し、当時のリムジンとしては高い性能を誇りました。変速機は3速ATで、前期型はボルグワーナー製、後期型はゼネラルモーターズ製のGM400を搭載しました。

インテリアは、乗る人の快適性を最優先に設計されています。シートの素材は、本革、布、そして営業車向けビニールと、幅広い選択肢が用意され、オーナーの好みに合わせてカスタマイズすることが可能でした。一方、ボディカラーは黒とグレーの2色を標準とし、オプションを含めても6色しかなく、特別な色を希望する場合は、特別注文が必要でした。

王室御用達、そして世界のVIPに愛された一台

DS420は、主にイギリス王室、政府高官、大企業の役員などを顧客として想定して設計されました。運転手付きのリムジンとして、後部座席での快適な移動を重視した設計がなされています。イギリス王室では女王エリザベス2世やエリザベス王太后の御料車として長年使用され、王太后崩御の際には霊柩車としても用いられました。

また、海外ではデンマーク、モナコ、ルクセンブルクなどの国家元首の公用車としても採用され、日本では1988年に日本銀行総裁の専用車として導入されました。アメリカでは大富豪が個人用リムジンとして購入するケースもあり、ハワード・ヒューズはトイレ付きの特注車を所有していました。世界各国の高級ホテルでは送迎用としてDS420が使用されている例もあります。

競合車種との比較と、その存在感

DS420は、ロールス・ロイス・ファントムVI、メルセデス・ベンツW100、キャデラック・フリートウッド・リムジンなど、世界の一流リムジンと肩を並べる存在でした。ジャガーの部品を流用することでコストを抑え、ロールス・ロイスの4分の1程度の価格で販売されていたにもかかわらず、走行性能や居住性においては決して劣らず、高い評価を得ていました。その重厚な車体は、「マクシム・ゴーリキー」という愛称で呼ばれるほどでした。

22年の歴史に幕

1992年、約22年に渡る生産の歴史に幕を閉じ、総生産台数は4141台に留まりました。ジャガーがフォード傘下となり、採算性の低さや設計の古さが問題視されたこと、製造ラインの都合などが生産終了の理由として挙げられています。しかし、その希少性と伝統、そして格式は、DS420を伝説的な高級リムジンの1台として語り継がせるでしょう。

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