デクレ

フランス法におけるデクレ（政令）について

フランス法において、デクレ（décret）とは、大統領または首相が命令制定権を行使して発する、一般的または個別的な効力を持つ執行行為を指します。日本語では政令や統令と訳されることがあります。第五共和国憲法第21条にその根拠があり、フランスの法体系において重要な役割を果たしています。

デクレの歴史的変遷

アンシャン・レジーム時代

アンシャン・レジーム時代では、デクレは刑事手続きにおける用語として使用されていました。具体的には、以下の3種類がありました。

召喚デクレ（décret d'assignation）: 被告を裁判所に召喚するための命令。
人的召喚デクレ（décret d'ajournement personnel）: 現在の勾引状に相当し、被告を拘束して裁判所に連行するための命令。
身柄拘束デクレ（décret de prise de corps）: 現在の逮捕状に相当し、被告を逮捕し拘束するための命令。

フランス革命期

憲法制定国民議会では、デクレは法律となるべき議決文書を指すようになりました。議会が可決したデクレは、国王の裁可を得て法律となりました。この用語法は1791年憲法にも引き継がれましたが、総裁政府時代には「決議」に置き換えられ、一時的にデクレという言葉は使用されなくなりました。

第一帝政

第一帝政期には、国家元首である皇帝が発する文書として、再び「デクレ」の語が用いられるようになりました。しかし、復古王政や七月王政では、「オルドナンス（ordonnance）」という用語が好まれ、デクレは再び使用されなくなりました。

第二共和政から第三共和政

1848年の臨時政府では、合議制に基づく公式文書を指すものとしてデクレが再び用いられました。その後、憲法制定議会により、議会が採択した法律としての効力を持つものを指すようになりました。1848年憲法の公布後、現在の意味に近いものとなりましたが、第三共和政の終わりまでは、国家元首のみがデクレを発行する権限を持っていました。

第四共和政と第五共和政

第四共和政と第五共和政では、首相にもデクレを発行する権限が認められるようになりました。

フランス法秩序におけるデクレ

フランスの規範階層において、デクレは法律の下位に位置づけられ、法律に適合しなければなりません。一方で、アレテ（arrêté）よりも上位に位置します。

デクレの発効

デクレは、署名と必要に応じて副署の後、フランス共和国官報に掲載されることで発効します。これは、内容を広く国民に周知するとともに、デクレが法的効力を持つために不可欠な手続きです。通常、デクレは公布日の翌日に発効しますが、緊急時には例外が認められます。また、デクレは国務院における越権訴訟の対象となり得ます。

デクレの憲法上の根拠

憲法第13条、第19条、第36条、第37条では、特定の命令行為はデクレによって行われなければならないと規定しています。

デクレの種類

デクレは、形式と内容によって分類できます。

形式による分類

共和国大統領デクレ（décret du président de la République）: 大統領が発令するデクレ。
大臣会議デクレ（décret en Conseil des ministres）: 大臣会議で決定されたデクレ。
国務院デクレ（décret en Conseil d'État）: 国務院の意見を聴取して発令されるデクレ。
単純デクレ（décret simple）: 上記以外のデクレ。

内容による分類

命令デクレ（décret règlementaire）: 一般的な規則を定めるデクレ。
施行デクレ（décret d'application）: 法律の具体的な施行に必要な事項を定めるデクレ。
独立デクレ（décret autonome）: 法律の根拠なしに、独立して制定されるデクレ。
* 個別デクレ（décret individuel）: 特定の個人または団体に対して適用されるデクレ。

デクレ起草の一般的なルール

デクレの制定には、一定の規則があります。例えば、デクレ2005-1791号（décret n° 2005-1791）の制定文には、デクレの形式や内容に関する詳細な規定が見られます。

まとめ

デクレは、フランスの行政法において重要な役割を担う執行行為であり、その歴史はフランスの政治体制の変遷と深く結びついています。法律の執行や具体的な政策の実施において、デクレは不可欠な要素となっています。

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