デジレ・デフォー

デジレ・デフォーの生涯

デジレ・デフォー（Désiré Defauw, 1885年9月5日 - 1960年7月25日）は、ベルギーのヘントに生まれました。幼少期から音楽の才能を発揮し、ヴァイオリンをヨハン・シュミットに師事しました。15歳でヘント音楽院を卒業する際には、ヴァイオリン、室内楽、作曲、対位法のディプロマを取得し、同時に同地のオーケストラを指揮しました。その後、ヴァイオリンのヴィルトゥオーソとしてヨーロッパ各地で客演を重ね、17歳でブリュッセル音楽院を卒業しました。ブリュッセル音楽院では、音楽院史上最も名誉ある賞を受賞しました。

指揮者としてのキャリア

ソロ・ヴァイオリニストとして成功を収めたデフォーは、1906年にはロンドンで新設されたオーケストラの指揮者に就任し、現代音楽の演奏に力を注ぎました。また、自身の作品を指揮することもあったそうです。ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団をはじめ、ローマ、ウィーン、モスクワ、マドリード、ブダペストなど、ヨーロッパ各地のオーケストラに客演しました。

第一次世界大戦中には難民としてロンドンに滞在し、アリード弦楽四重奏団の第一ヴァイオリン奏者として活動しました。また、ベルギー・カルテットではヴァイオリン奏者を務め、ピアニストのジョゼフ・ジョンゲンとクロード・ドビュッシーの『ヴァイオリン・ソナタ』をイギリスで初演しました。1915年には、ヨーゼフ・ヨアヒムが設立したソサエティ・オブ・クラシック・ミュージック・イン・ロンドンの指揮者にも就任しています。

ベルギーでの活動

デフォーはベルギーに帰国後、アントワープ音楽院でヴァイオリン講師を務めつつ、国内有数の指揮者として活躍しました。1920年には、ブリュッセル王立音楽院のオーケストラを、同音楽院の教員以外で初めて指揮しました。1924年にはベルギー国立放送管弦楽団の指揮者を務め、1933年にはブリュッセル王立音楽院の指揮科で教鞭をとりました。ブリュッセル王立音楽院管弦楽団とは録音も残しています。

また、モネ歌劇場でのオペラ指揮や、現代音楽を取り上げる「コンサート・デフォー」シリーズの立ち上げ、ブリュッセル交響楽団の設立、ベルギー国立管弦楽団の結成など、精力的に活動しました。ベルギーに常設の国立オーケストラを設立することは、彼の長年の夢でした。これらの活動から、彼は「ベルギーの音楽監督」と称されました。デフォーはベルギー国外でも活躍し、レニングラード・フィルハーモニー管弦楽団やモスクワ・フィルハーモニー管弦楽団にも客演しました。1939年12月には、旧友アルトゥーロ・トスカニーニの招きでNBC交響楽団を指揮し、アメリカデビューを果たしました。

第二次世界大戦下の脱出

1940年5月、デフォーはイタリアでのコンサート中に、ベルギーがナチスに侵攻されたことを知りました。スイス、パリを経てブリュッセルに戻ると、街は爆撃による大火に見舞われていました。彼は危険を冒して自宅に戻り、家族と合流し、1792年製のストラディバリウスを持って避難しました。その後、約1ヶ月間、家族は車中泊をしながら逃れました。

パリ、オルレアン、トゥールーズ、ボルドーを転々とした後、バイヨンヌに到着。そこで、息子夫婦はスペインに入国できたものの、妻のパスポートに不備があり、デフォー夫妻は取り残されてしまいました。その後、デフォー夫妻は貨物船でイギリスへ脱出することに成功しました。

ファルマスに到着後、デフォーはロンドンへ渡り、BBC交響楽団を指揮しました。その後、アルトゥーロ・トスカニーニの尽力でアメリカに渡ります。アメリカへの航海の危険を考慮し、デフォーはロンドンのボンド・ストリートでストラディバリウスを手放しました。奇しくも、その航海は無事でしたが、ボンド・ストリートは爆撃されてしまいました。

アメリカとカナダでの活動

1940年8月21日、デフォーは難民としてアメリカに渡りました。その後、シカゴ交響楽団やモントリオール交響楽協会（後のモントリオール交響楽団）など、アメリカやカナダの主要なオーケストラを指揮しました。

モントリオール交響楽協会の芸術監督として1940年から1953年まで務め、アレクサンダー・ブロットの『戦争と平和』などの作品を初演しました。また、モントリオールでは、ケベック音楽院の院長も務めました。

1943年にはシカゴ交響楽団の第3代首席指揮者に選出され、数々の録音やアメリカ各地への演奏旅行を行いましたが、評価は芳しくありませんでした。新作を積極的に取り入れた結果、観客の人気も失い、チケット収入が減少しました。1947年に首席指揮者を辞任しましたが、その後もシカゴのユースオーケストラを指揮しました。

1954年から1958年には、グランド・ラピッズ交響楽団の音楽監督を務めたほか、ボストン交響楽団やデトロイト交響楽団にも客演しました。また、ノースウェスタン大学のオーケストラなど、学生オーケストラを指揮することもありました。

晩年

1950年からゲーリー交響楽団の指揮者を務めましたが、1958年に病気のため引退しました。1960年7月5日、肺炎によりゲーリーの自宅で亡くなりました。74歳でした。

人物像

デフォーは小柄で細身、豊かなグレイヘアの持ち主でした。快活でエネルギッシュ、ユーモアのセンスがある人物だったと伝えられています。しかし、戦争の影響で、大きな音に敏感になり、頭上を飛行機が飛んでいないか気にしていたそうです。

妻のジェーンはピアニスト、息子ジョンは建築家で、4人の孫がいました。30歳の時に生まれた息子ジョン・フランシス・モーダントは生後すぐに亡くなっています。

デフォーはフランス語を話し、レパートリーは幅広く、特に同時代の作品紹介に熱心でした。作曲家の心情に寄り添った指揮者として知られ、バルトーク、ストラヴィンスキー、ドビュッシーなど、多くの作曲家の作品を取り上げました。シカゴ交響楽団を指揮して録音したプロコフィエフの『スキタイ組曲』は、世界初録音となりました。

作曲活動

デフォーは作曲家としても活動し、以下の作品を遺しています。

"Rhapsody Fantastique"
"La douce nuit descend"

評価

ベルギー時代には「ベルギーの音楽監督」と呼ばれましたが、シカゴ交響楽団での活動は批評家から厳しい評価を受けました。しかし、モントリオール交響楽協会との演奏は正確さを称賛され、オーケストラトレーナーとしての評価も高く、モントリオールの新聞は「デフォーの情熱的な指揮によってオーケストラは進歩した」と記しています。ただし、モントリオール交響楽協会はデフォー着任以前から優秀なオーケストラであったという指摘もあります。

デフォーのコンサートプログラムは評価されることもあり、グリンカから始まり、リムスキー＝コルサコフ、ストラヴィンスキーへと続くプログラムは、音楽的な影響関係がよく理解できると称賛されました。

デフォーは、ヴァイオリニスト、指揮者、作曲家として、その生涯を音楽に捧げました。彼の音楽への情熱は、多くの人々に影響を与え、その功績は今もなお語り継がれています。

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