デニス・サッチャー

サー・デニス・サッチャー：鉄の女を支えた実業家

サー・デニス・サッチャー（Sir Denis Thatcher, 1st Baronet, 1915年5月10日 - 2003年6月26日）は、イギリスの実業家であり、陸軍軍人でした。彼は、第71代イギリス首相であるマーガレット・サッチャーの夫として広く知られています。英国史上初めての男性の首相配偶者としても特筆されます。

生い立ちと軍歴

1915年、デニスはロンドンのルイシャムで生まれました。彼の父はトマス・ハーバート・サッチャー、母はリリアン・キャサリン（旧姓バード）です。祖父のトマスは、19世紀後半に塗料・防腐剤会社「アトラス・プリザーヴァティヴズ」を設立した実業家であり、父がその事業を継承しました。ミル・ヒル・スクールを卒業後、第二次世界大戦中には陸軍砲兵部隊の少佐として従軍しました。

結婚と事業

1942年、デニスはマーガレット・ドリス・ケンプソンと最初の結婚をしましたが、戦時中の出征による疎遠が原因で6年後に離婚しました。戦後、父の死に伴い「アトラス・プリザーヴァティヴズ」の経営を引き継ぎました。1950年、総選挙で保守党候補であったマーガレット・ロバーツ（後のマーガレット・サッチャー）と出会い、彼女を送迎したことがきっかけで親交を深めました。

マーガレットは後に、デニスに惹かれた理由として「共通点が多かった」と語っています。彼女は化学を専攻し、デニスは化学製品の事業に携わっていました。また、彼らは会社の財政面や政治にも強い関心を持っていました。一方、マーガレットは友人に対し、「デニスが私の政治キャリアを形成するために必要な資金を提供してくれた」と打ち明けています。

1951年12月13日、二人はシティのメソジスト教会で結婚しました。新婚旅行はポルトガルへ。1953年8月には、双子の子供（マークとキャロル）が誕生しました。

実業界での活躍

1968年から1998年までクイントン・ヘイゼル、1969年から1975年までバーマ・オイル・トレーディングの取締役を務め、実業家としての手腕を発揮しました。

首相の夫として

1979年に妻が英国初の女性首相に就任すると、デニスはダウニング街10番地に入居し、首相の夫としての役割を担いました。彼は妻から頼りにされ、政治的な相談にも親身に応じていたと言われています。

マーガレット・サッチャーの首相退任直後の1990年12月7日、デニスはエリザベス2世女王より準男爵位を授与されました。これは、妻を支えた功績に対する叙勲であり、新聞各紙も彼の「首相の夫」としての役割を高く評価しました。

死去と遺産

2003年6月26日、デニス・サッチャーは88歳で亡くなりました。準男爵位は長男のマークが継承しました。

栄典

1990年：準男爵位（ケント州スコットニーのサッチャー家）
1944年：大英帝国勲章メンバー(MBE)
1946年：国防義勇軍勲章(TD)

家族

最初の妻：マーガレット・ドリス・ケンプソン（1942年結婚、1946年離婚）
二番目の妻：マーガレット・ヒルダ・ロバーツ（1951年結婚、2子をもうける）
長男：マーク・サッチャー（2代準男爵、実業家）
* 長女：キャロル・サッチャー（ジャーナリスト）

サー・デニス・サッチャーは、実業家として成功を収める一方で、妻であるマーガレット・サッチャーを献身的に支え、英国の歴史にその名を刻みました。彼の存在は、単なる「首相の夫」という枠を超え、英国社会における男性の役割、夫婦のあり方について深く考えさせるものと言えるでしょう。

もう一度検索