デモドコス

プラトン偽書『デモドコス』：断片的な議論と多様なテーマ

『デモドコス』（Demodocus）は、プラトン名義で伝えられるものの、偽書であると広く認められている短篇の対話篇です。副題は「助言について」とされています。この作品は、古代の文献においてもその真偽について疑義が呈されており、特にディオゲネス・ラエルティオスの『ギリシア哲学者列伝』では、偽作と断定されている複数のプラトン著作の一つとして明記されています。そのため、プラトンの真筆として扱われることはありません。

登場人物と設定

登場人物は主に二人です。一人は無名氏とされ、その人物像はソクラテスを思わせます。もう一人はデモドコスで、『テアゲス』という別の対話篇にも登場する人物と同一人物である可能性が指摘されています。

対話篇は、無名氏（ソクラテス）が、デモドコスの審議に助言者として招かれ、審議の課題について考察する場面から始まります。しかし、議論は途中で途切れ、別の話題へと移行するという、独特の展開を見せています。これは、この作品が複数の異なる断片を寄せ集めて編纂された可能性を示唆しています。

多様なテーマ

『デモドコス』は、一見すると統一性に欠けるように見えますが、いくつかの重要なテーマが扱われています。具体的には、以下の4つのトピックが絡み合いながら展開されています。

1. 審議と助言: この対話篇の中心的なテーマの一つです。ソクラテス風の人物が、どのように助言を行い、審議を導くべきかという点が問われています。しかし、その議論は断片的であり、明確な結論には至っていません。
2. 訴訟における告訴者・弁明者双方の言い分の取り扱い: 法廷での弁論術、あるいは公正な判断のあり方が、間接的に問われています。訴訟における両者の主張をどのように評価すべきかという点が、議論の重要な部分を形成しています。
3. 貸与と信用: 経済活動における信用関係の重要性、そして信頼できる相手を見極める方法が問われています。貸し借りといった経済行為における倫理的な問題が提示されていると考えられます。
4. 誰を信用すべきか: 上記の貸与と信用に関連するテーマです。相手の人格や行動をどのように判断し、信頼に値する相手を見分けるべきかという点が、具体的な事例を交えながら議論されています。

叙述形式と未完成性

『デモドコス』は対話篇という体裁を取っていますが、実際には独り語り、あるいは途中に架空の会話を挿入した単なる叙述に近い形式で書かれています。議論は途中で打ち切られ、結論に達することなく終わるため、未完成な作品であるとも解釈できます。この点は、偽書であるという説を裏付ける根拠の一つとして挙げられています。

日本語訳

『デモドコス』は、日本語に翻訳されており、岩波書店から出版されている『プラトン全集』に収録されています。この翻訳を通じて、古代ギリシアの思想の一端に触れることができます。しかし、その断片的で未完成な性質を踏まえた上で、内容を解釈する必要があります。

結論

『デモドコス』は、プラトン偽書として分類され、その真偽については疑う余地がありません。しかし、その断片的な議論や多様なテーマは、古代ギリシアの社会や思想を理解する上で、貴重な資料となっています。特に、審議、訴訟、貸与、信用といったテーマは、現代社会においても依然として重要な意味を持ち続けていると言えるでしょう。

もう一度検索