デュラン (出版社)

フランスを代表する音楽出版社の名を連ねるデュラン・アンド・シー（Durand & Cie）は、その長い歴史を通じて、特にフランス近代から現代にかけての音楽史において極めて重要な役割を果たしました。

同社の創業は1869年12月30日。オルガニストであり作曲家でもあったオーギュスト・デュランが、友人のルイ・シェーネヴェルクと共に、当初「デュラン＝シェーネヴェルク・アンド・シー（Durand-Schoenewerk & Cie）」としてパリに設立しました。しかし、その活動は一時的に途絶えます。

再始動を果たしたのは1891年のことです。オーギュストは息子であるジャックとともに、「デュラン・アンド・フィス（Durand & fils）」の名で出版事業を再開しました。その後、創業者のオーギュストが世を去ると、社名は現在の「デュラン・アンド・シー（Durand & Cie）」へと変更され、事業は引き継がれていきました。

デュラン社の成長と成功は、当時のフランスを取り巻く時代背景と深く結びついています。創業期は普仏戦争終結の直後であり、フランス国内には強い愛国心と自国の文化に対する誇りが高まっていました。このような国民感情の高まりを背景に、カミーユ・サン＝サーンスとロマン・ビュシーヌらが中心となって設立した「国民音楽協会（Société Nationale de Musique）」は、「フランスのためのフランス音楽」創造を掲げ、多くの国内作曲家を支援しました。デュラン社は、この協会の理念と共鳴し、積極的にフランス人作曲家の作品出版を手がけることになります。

同社がカタログに加えた作品群は、まさに19世紀末から20世紀にかけてのフランス音楽の精髄とも言えるものでした。カミーユ・サン＝サーンス、ガブリエル・フォーレ、ヴァンサン・ダンディ、クロード・ドビュッシー、ポール・デュカス、ギー・ロパルツ、アルベール・ルーセル、フロラン・シュミット、モーリス・ラヴェル、ダリウス・ミヨー、フランシス・プーランク、モーリス・デュリュフレ、アンドレ・ジョリヴェ、オリヴィエ・メシアンといった、フランス音楽史に偉大な足跡を残した作曲家たちの革新的な作品が、デュラン社の手によって広く世界に紹介されました。彼らの楽譜を出版し流通させることは、これらの作曲家たちの活動を支え、フランス近代音楽から現代音楽へと続く豊かな伝統を築き上げる上で、不可欠な貢献であったと言えます。

時代を経て、デュラン社はフランスの他の有力な音楽出版社との合併を経て、組織を拡大していきました。具体的には、エディシオン・サラベール（Éditions Salabert）やマックス・エシグ社（Max Eschig）といった著名な出版社と統合されています。現在、デュラン社の豊富な出版目録は、世界最大級の音楽出版社グループであるユニバーサル・ミュージック・パブリッシング・グループ（Universal Music Publishing Group）の傘下で管理されており、その歴史的な遺産は現代に引き継がれています。

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