デューク (アルバム)

ジェネシス『デューク』：新たな時代の幕開け

イギリスを代表するプログレッシブ・ロック・バンド、ジェネシスが1980年にリリースした通算10作目のスタジオ・アルバム、『デューク』は、彼らのキャリアにおける大きな転換点を示す重要な作品です。フィル・コリンズ、マイク・ラザフォード、トニー・バンクスの3人体制としては2作目にあたる本作は、バンド史上初めて全英アルバムチャートの首位を獲得するという、歴史的な快挙を成し遂げました。

アルバム制作の背景

前作『そして3人が残った』（1978年）をリリースした後、ジェネシスのメンバーはそれぞれのソロ活動やサイドプロジェクトに精力的に取り組んでいました。1979年には、ドラマーであるフィル・コリンズがジャズ・ロック・バンドのブランドXに再び参加しています。同年、キーボーディストのトニー・バンクスは初のソロ・アルバム『キュアリアス・フィーリング』を発表し、翌1980年にはギタリストのマイク・ラザフォードもまた、初のソロ作品となる『スモールクリープス・デイ』をリリースしました。

こうした個々の活動を経て再びジェネシスとして集結した彼らは、本作の制作にあたり、これまでのサウンドに新たなアプローチを試みました。特に注目されるのは、バンドとして初めてレコーディングにドラムマシンが導入された点です。また、アルバムのパッケージングも印象的で、カバーアートにはフランスの絵本作家リオネル・コクランが描いた「アルバート」という名のキャラクターのイラストが使用されており、その独特な世界観がアルバムの雰囲気に彩りを添えています。

音楽性と商業的成功

『デューク』の音楽性は、従来の長尺で構築的なプログレッシブ・ロックの要素を残しつつも、より簡潔でポップなメロディーや構成の楽曲が数多く取り入れられているのが特徴です。これは、当時徐々に頭角を現していたフィル・コリンズのソングライターとしての才能が大きく影響しています。音楽評論家のスティーヴン・トーマス・アールワインはオールミュージックのレビューで、「バンドはこのアルバムをポップ・ソングで構築したが、締めくくりの『デューク組曲』からも明らかなように、プログレッシブな要素も大量に注入されている」と評しており、本作が持つポップ志向とプログレッシブな壮大さの絶妙なバランスを指摘しています。

この音楽的な方向性の変化は、商業的な成功という形で実を結びました。本作は1980年4月5日付の全英アルバムチャートで初登場1位を獲得し、その後2週連続でその座を維持しました。これはジェネシスにとって初の全英チャート1位であり、バンドのキャリアにおける大きなマイルストーンとなりました。

アルバムからは複数の楽曲がシングルカットされ、ヒットを記録しました。特に「ターン・イット・オン・アゲイン」は全英8位、バンドの代表曲の一つとなりました。「ダッチス」は全英46位、「ミスアンダースタンディング」は全英42位、そして全米シングルチャートでは14位を記録するなど、アメリカでのブレイクにも大きく貢献しました。

収録曲リスト

アルバム『デューク』には、以下の12曲が収録されています。バンドメンバーそれぞれが作曲に関わった楽曲や、単独で手掛けた楽曲が並びます。

1. Behind the Lines
2. Duchess
3. Guide Vocal
4. Man of Our Times
5. Misunderstanding
6. Heathaze
7. Turn It on Again
8. Alone Tonight
9. Cul-de-Sac
10. Please Don't Ask
11. Duke's Travels
12. Duke's End

参加ミュージシャン

フィル・コリンズ：ボーカル、ドラムス、ドラムマシン、パーカッション
マイク・ラザフォード：ギター、ベース、ベースペダル、バッキング・ボーカル
トニー・バンクス：キーボード、12弦ギター、バッキング・ボーカル

デヴィッド・ヘンツェル：バッキング・ボーカル (アディショナル・ミュージシャン)

結び

『デューク』は、ジェネシスがその音楽的な幅を広げ、プログレッシブ・ロックの枠を超えてより広いリスナー層を獲得していく過程を示す重要な作品です。商業的な成功と創造的な探求心を両立させた本作は、その後のジェネシスのキャリア、特に1980年代のサウンドの礎となり、バンドを新たな高みへと導きました。それは、単なるスタイルの変化ではなく、バンドとしての成熟と進化の証であると言えるでしょう。

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