デンマーク・クローネ

デンマーク・クローネ：電子決済が浸透した北欧の通貨

デンマークの通貨単位はクローネ（Dansk Krone）です。クローネは「王冠」を意味し、スウェーデンのクローナと同じ語源を持ちます。ISO 4217コードはDKK、補助通貨単位はオーレ（öre）で、1クローネは100オーレに相当します。デンマーク国内では、一般的に「kr」と略記されます。

電子決済社会の現状

デンマークでは、世界に先駆けて電子決済が普及しており、現金取引は非常に稀です。1983年に導入されたデビットカードシステム「Dankort」が国民生活に深く浸透し、2015年時点での発行枚数は580万枚を超え、1枚あたりの年間平均決済回数は209回に達しました。個人商店から大規模なチェーンストアまで、ほぼ全ての店舗でDankortが利用できるため、成人デンマーク国民のほとんどが所持しているとされています。

この電子決済の普及は、政府によるキャッシュレス社会推進政策と、冬季の現金輸送の困難さといった地理的要因が重なって実現しました。2017年時点での現金決済比率は10％を下回っており、デンマーク国内の造幣局は既に閉鎖され、硬貨と紙幣は海外委託製造となっています。フィンランドとフランスの企業がそれぞれ硬貨の鋳造と紙幣の印刷を請け負っています。

ただし、デンマーク中央銀行は、現金の完全廃止は現時点では予定しておらず、慎重な姿勢を貫いています。高齢者、観光客、視覚障害者など、現金利用を必要とする層への配慮がその理由です。現金廃止に関する報道はしばしば過熱気味ですが、政府の方針は現実的な対応を優先しています。

歴史とユーロ導入問題

クローネは1873年、デンマーク、スウェーデン、ノルウェーの三国間で発足したスカンジナビア通貨同盟において法定通貨となりました。この同盟は金本位制に基づき、1クローネは純金0.40323グラムに相当していましたが、第一次世界大戦後に崩壊しました。しかし、三国はその後もクローネ通貨名称を維持しています。

デンマークはEU加盟国ですが、スウェーデンと同様に独自の通貨を維持しています。ユーロ導入については、国民投票で幾度も否決されており、国民感情や強国への抵抗感なども背景にあると考えられています。2014年現在、クローネはヨーロッパ為替相場メカニズム(ERM II)によってユーロに±2.25％の変動幅でペッグされています。これは通常よりも狭い変動幅であり、ユーロ導入への前段階と見なされていますが、導入時期は依然として不透明です。

フェロー諸島

デンマーク領フェロー諸島では、独自のモチーフをデザインしたフェロー・クローネ紙幣が発行されていますが、硬貨はデンマークのものが使用されています。

硬貨

デンマークの硬貨には、50オーレ、1クローネ、2クローネ、5クローネ、10クローネ、20クローネの6種類があります。50オーレ硬貨は穴あき、他は穴無しです。デザインは、伝統的に国王や女王の肖像やモノグラムが用いられており、近年は塔、童話、北極、船といったテーマシリーズの硬貨も発行されています。また、王室の慶事などには記念硬貨も発行されます。現金取引では、オーレ単位の端数処理にスウェディッシュ・ラウンディング（四捨五入）が用いられます。

紙幣

デンマークの紙幣は、これまで数度にわたる改定が行われています。当初は農業や漁業をモチーフとしたデザインでしたが、現女王の治世以降は、近代デンマークの文化人や、国内の教会にある石像のレリーフがデザインに採用されるようになりました。

1997年から発行されたシリーズ97紙幣では、50、100、200、500、1000クローネの5種類が発行されました。その後、2009年から新たなセキュリティ対策を施したシリーズ2009紙幣が発行され、デンマーク国内の橋をモチーフにしたデザインに変更されました。このシリーズでは、人物の肖像は使用されていません。偽造防止技術には、スレッドウィンドウと呼ばれる、樹脂製の細帯に3Dアニメーションを施した高度な技術が用いられています。

紙幣のシリーズとデザイン

シリーズ97紙幣

50クローネ：作家カレン・ブリクセン、ケンタウルスのレリーフ
100クローネ：音楽家カール・ニールセン、バジリスクのレリーフ
200クローネ：女優ヨハンヌ・ルイーゼ・ハイベルク、ライオンのレリーフ
500クローネ：科学者ニールス・ボーア、龍と戦う騎士のレリーフ
1000クローネ：画家アンナ・アンカーとミカエル・アンカー夫妻、騎士の決闘のレリーフ

シリーズ2009紙幣

50クローネ：Sallingsund Bridge、Skarpsalling Vessel
100クローネ：old Little Belt Bridge、Hindsgavl dagger
200クローネ：Knippelsbro、a belt-plate from Langstrup
500クローネ：the bridge Dronning Alexandrines Bro、the bronze vessel from Keldby
1000クローネ：the Great Belt Bridge、the Sun Chariot

デンマーク・クローネは、電子決済社会の先進性と、独自の通貨維持への強い意思を象徴する通貨と言えるでしょう。今後のユーロ導入の可能性も含め、その動向は今後も注目されます。

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