デ・ハビランド DH.106 コメット

デ・ハビランド コメット：ジェット旅客機の夜明けと影

イギリスのデ・ハビランド社が開発したデ・ハビランド・コメットは、世界で初めて定期旅客運航に就いたジェット旅客機として航空史に名を刻みました。しかしその輝かしいデビューの裏には、数々の空中分解事故という暗い影が潜んでいました。本稿では、コメットの開発から運用、そして悲劇の事故とその後までを詳細に解説します。

開発の背景：戦後の航空需要とブラバゾン委員会

第二次世界大戦後、イギリスは戦時中に培った技術力を活かし、民間航空分野での優位性を確保しようとしました。1943年、ロード・ブラバゾンを委員長とするブラバゾン委員会が設立され、戦後の旅客機開発計画が検討されました。コメットは、この委員会の提案に基づき、「大西洋横断飛行可能なジェット郵便輸送機」として開発が始まりました。

コメットの開発：技術的挑戦と苦悩

デ・ハビランド社は、ジェット戦闘機開発で培った技術を基に、世界初のジェット旅客機開発に挑みました。当初は無尾翼機案も検討されましたが、研究機の事故を踏まえ、より堅実な後退翼を採用。自社製の「ゴースト」エンジンを搭載しました。しかし、「ゴースト」エンジンは推力が不足しており、設計に様々な工夫を凝らす必要がありました。空気抵抗を減らすため、エンジンを主翼付根に埋め込むなど、独自の設計が採用されました。また、高高度飛行に対応するため、軽量で高強度な機体構造も開発されました。

就航と人気：世界を席巻した革新性

1952年5月、コメットはロンドンとヨハネスブルグ間の定期便に就航しました。従来のプロペラ機に比べ、はるかに高速で快適な飛行を実現し、大きな人気を博しました。その速度と快適性から、世界中の航空会社から注目を集め、イギリスの航空界の威信を高めました。しかし、この栄光の時代は長くは続きませんでした。

連続墜落事故：安全性の課題

就航後、コメットは相次ぐ空中分解事故に見舞われます。これらの事故は、高高度飛行における機体の金属疲労が原因だと判明しました。与圧された機体が繰り返しの加圧・減圧によって疲労し、窓枠の角などに亀裂が発生。それが拡大し、機体が空中分解したのです。この事故は、航空機の安全設計に大きな衝撃を与え、後のジェット旅客機の設計に大きな影響を与えました。

事故調査と安全対策：技術の進化

事故を受けて、イギリス政府は徹底的な調査を実施。巨大な水槽を用いた実験により、金属疲労が事故原因であることが証明されました。この事故調査と実験は、航空機設計における安全性の重要性を再認識させる契機となり、後のジェット旅客機の設計において、開口部の角を丸める、フェイルセーフ構造を採用するなど、安全対策が強化されるきっかけとなりました。

再就航と競争激化：時代の流れ

事故後の改良を経て、コメットは再就航を果たしました。しかし、ボーイング707やダグラスDC-8といったより大型で高速な次世代機が登場し、コメットは競争に遅れをとるようになります。短距離路線へのシフトも図られましたが、同時期に登場したシュド・カラベルに市場を奪われるなど、厳しい状況が続きました。最終的に1964年に生産が終了しました。

コメットの遺産：安全への貢献

コメットは短い期間で生産が終了しましたが、その開発と運用を通じて得られた教訓は、後のジェット旅客機の安全設計に大きく貢献しました。事故原因の究明と徹底的な安全対策の導入は、現代の航空機の安全性向上に繋がる重要な一歩でした。コメットは、世界初のジェット旅客機として、航空史に燦然と輝く、そして同時に、安全性の重要性を私たちに強く訴えかける機体なのです。

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