デーモニーケー

デーモニーケー（古希: Δημονίκη, Dēmonīkē）は、古代ギリシアの神話世界に現れる女性の一人です。その名は長母音を省略してデモニケと表記されることもあります。彼女の出自は名高い家系に繋がり、父はアイトーリア地方の都市プレウローンの創建者であるプレウローンの息子アゲーノール、母はカリュドーンの王オーイネウスの父にあたるテスティオスの娘エピカステーです。この両親から生まれたデーモニーケーは、英雄ポルターオーンと兄弟にあたります。

詩人ヘーシオドスが編纂したとされる『名婦列伝』においては、彼女の名前はデーモディケー（Δημοδίκη, Dēmodikē）として記されています。同書が伝えるところによれば、デーモニーケーは筆舌に尽くしがたいほどの美貌の持ち主であり、その心を射止めようと、様々な国から数えきれないほどの王たちが高価な贈り物を携えて求婚に訪れました。しかし、彼女の意志は固く、どれほど熱心な求愛者であっても、誰も彼女の心を動かし、愛情を得ることは叶わなかったとされています。その美しさと気高さは、広く知れ渡っていたのでしょう。

このような清らかな乙女であったデーモニーケーですが、軍神アレースとの間に深い関係を持ち、複数の子供をもうけたことが伝えられています。アレスとの間に生まれた息子たちには、テスティオス（Θέστιος, Thestios）、エウエーノス（Εὔηνος, Euenos）、モーロス（Μῶρος, Moros）、ピュロス（Πύρος, Pyros）がいました。これらの息子たちは、それぞれ後の神話や伝説において重要な役割を果たしたり、後世にその名を残すことになります。

特に息子の一人であるテスティオスは、アルタイアー（Αλθαία, Althaia）、レーダー（Λήδα, Leda）、そしてヒュペルムネーストラー（Υπερμνήστρα, Hypermnestra）といった、ミュケーナイ時代を彩る有名な女性たちの父親となりました。アルタイアーはカリュドーンの猪狩りで知られる英雄メレアグロスの母であり、レーダーはスパルタ王テュンダレオースの妻としてヘレンやクリュタイムネーストラーを生んだと伝えられています。また、もう一人の息子エウエーノスは、アイトーリア地方を流れる主要な河川の一つであるエウエーノス川（古希: Εὔηνος）の名の由来となった人物として知られています。このように、デーモニーケーは自らの美しさで多くの者を魅了しただけでなく、神との間に生まれた子孫を通じて、ギリシア神話の系譜にその名を刻んでいます。彼女の物語は、神と人間の関わり、そして美しさが持つ影響力を物語る一例と言えるでしょう。

もう一度検索