ヒュペルムネーストラー

ヒュペルムネーストラー（古代ギリシア語: Ὑπερμνήστρα, ラテン文字転写: Hypermnēstrā）は、ギリシア神話に現れる女性の名である。長母音を省略してヒュペルムネストラとも表記される。この名前を持つ女性は複数存在するが、特に広く知られているのは以下の二人である。

1. アルゴスの王ダナオスの娘
2. テスティオスの娘

以下にそれぞれの人物について詳述する。

ダナオスの娘ヒュペルムネーストラー

このヒュペルムネーストラーは、アルゴスの王ダナオスの50人の娘たち、通称ダナイデスのひとりに数えられる。一般的にはダナオスの娘たちの長女とされている。彼女の母親はエレパンティスで、ゴルゴポネーという姉妹がいた。後に、エジプト王アイギュプトスの子であるリュンケウスと結ばれ、息子アバースをもうけることになる。

彼女の物語は、父ダナオスと、その双子の兄弟であるエジプト王アイギュプトスの間の王権争いに端を発する。アイギュプトスの50人の息子たちを恐れたダナオスは、故郷アルゴスへと逃れて王位に就いた。しかし、アイギュプトスの息子たちはアルゴスにやって来て、和解を申し入れ、ダナオスの娘たちとの結婚を提案した。ダナオスは彼らの真意を疑いながらもこの申し出を受け入れ、娘たちにそれぞれ結婚相手となるアイギュプトスの息子たちを割り当てた。しかし、結婚相手が決まると同時に、ダナオスは娘たち一人ひとりに短剣を渡し、初夜に眠っている夫を殺害するよう密かに命じた。

ダナイデスのうち49人は父の恐ろしい命令に従い、夫たちをその手で殺害した。しかし、ヒュペルムネーストラーだけは父の命に背いた。彼女の夫となったリュンケウスは、彼女の意思を尊重し、力ずくで関係を結ぼうとはしなかった。リュンケウスのこの行動に心を打たれたヒュペルムネーストラーは、夫の命を奪うことを拒み、彼を助ける決断をしたのである。一説には、彼女は夫を殺そうと短剣を手に取るも思いとどまり、夜が明ける前にリュンケウスを起こして逃がしたとも伝えられている。

夫を逃がしたことが父ダナオスに露見すると、ヒュペルムネーストラーは激怒した父によって投獄された。さらに彼女は父によって訴えられたが、裁判では無罪を勝ち取った。これにより、ダナオスもついに二人の結婚を認めざるを得なくなったという。

また、アルゴスで毎年行われたという烽火祭（のろし祭り）は、このヒュペルムネーストラーとリュンケウスの物語に由来するとされる。ヒュペルムネーストラーがリュンケウスを逃がした際、互いの無事を烽火で知らせ合う約束を交わしたという。リュンケウスがリュルケイアまで逃げ延びた際に上げた烽火に対し、ヒュペルムネーストラーもアルゴスのアクロポリスであるラーリサから烽火を上げて無事を知らせたと伝えられており、烽火祭はこの出来事を記念して始まったとされる。

テスティオスの娘ヒュペルムネーストラー

もうひとりのヒュペルムネーストラーは、アイスコスの息子テスティオスとエウリュテミスの子である。彼女はアルタイアー、レーダー、イーピクロス、エウヒッポス、プレークシッポス、エウリュピュロスといった有名な兄弟姉妹を持つ。彼女はオイクレースと結ばれ、預言者として知られるアムピアラーオスを生んだ。ただし、アムピアラーオスの父はアポローンであるとする異説も存在する。

さらに異説として、彼女の父はテスピオスであり、オイクレースとの間にイーピアネイラ、ポリュボイア、そしてアムピアラーオスを生んだとするものもある。この異説は、父テスティオスの名前がテスピオスと混同されたことに起因すると考えられている。

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