デーモン・ナイト

デーモン・フランシス・ナイトは、1922年9月19日にアメリカ合衆国オレゴン州で生を受けました。作家、編集者、批評家として、そして熱心なSFファンとして、20世紀後半のSF界において極めて大きな足跡を残した人物です。

彼のキャリアは、SF雑誌に掲載された漫画でプロデビューを飾ることから始まりました。最初の小説『Resilience』を1941年に発表しましたが、編集上の問題により結末が本来意図したものと異なってしまうという経験をしています。この頃、彼はニューヨーク州に移り住み、フューチャリアンズと呼ばれるSFファンのグループに参加していました。このグループには、アイザック・アシモフ、フレデリック・ポール、ジュディス・メリルといった、後にSF界の巨星となる多くの才能が集まっており、ナイトは彼らとの交流を通じて大きな刺激を受けました。フューチャリアンズのメンバーをモデルにした短編も創作しています。

ナイトは作家活動と並行して、SF雑誌での書評連載を通じてSF評論家としての評価を確立しました。その批評は鋭く、時に辛辣なことで知られ、特にA・E・ヴァン・ヴォークトに対して「彼はよく言われるような巨匠ではない。彼は単に巨大なタイプライターを使っている小人だ」と評した言葉は有名です。彼の書評は、既存の権威に臆することなく作品の本質を問うものでしたが、その率直さゆえに出版社との摩擦も生じ、連載を打ち切られた経験もあります。しかし、これらの書評は後に『驚異の探求』（In Search of Wonder）として書籍にまとめられ、1956年にはSF評論として初めてヒューゴー賞を受賞するなど、SF批評における古典としての地位を確立しました。

ナイトのSF界への貢献は、自身の創作や批評活動にとどまりません。1965年には、アメリカSFファンタジー作家協会（SFWA）の創設に尽力し、初代会長を務めました。SF作家の地位向上とコミュニティ形成に果たした役割は計り知れません。また、ファンタジーファンの全国組織の設立にも関与したほか、作家育成のための重要な場であるミルフォード・ワークショップやクラリオン・ワークショップを、作家であり妻でもあるケイト・ウィルヘルムと共に創設しました。これらのワークショップは、多くの新人作家がプロとして育つための登竜門となりました。

編集者としても、ナイトはSF界に大きな影響を与えました。1965年にChilton Booksの編集者となった彼は、他の出版社に12度も断られたフランク・ハーバートの長編小説『デューン』の原稿を読み、その出版を決断します。結果として『デューン』はSF史に残る傑作となりましたが、皮肉なことに、初版の売れ行き不振と出版費用がかさんだことを理由に、ナイトはChilton Booksを解雇されてしまいます。しかし、彼の編集者としての才能は止まることなく、1966年から1975年にかけて、質の高いオリジナルSFアンソロジーシリーズ『オービット』を全20巻刊行しました。このシリーズからは、R・A・ラファティやジーン・ウルフ、ジョアンナ・ラスといった個性的な作家が輩出され、SF界の多様化に貢献しました。

作家としてのナイトは、アイデアとユーモアに富んだ短編小説を得意としました。中でも代表作とされるのは、異星人が地球人を「供応」するという意外な結末で読者を驚かせた「人類供応法」です。この作品は、人気テレビシリーズ『トワイライト・ゾーン』のエピソードとしても映像化され、広く知られることとなりました。

また、評論用語として「第二種イディオット・プロット（second-order idiot plot）」という言葉を考案したことでも知られています。これは、ジェイムズ・ブリッシュが提唱した「イディオット・プロット」（登場人物が皆馬鹿でないと話が成り立たない筋立て）をさらに発展させたもので、「登場人物だけでなく、社会全体、あらゆる人々が一級の馬鹿でなければ成立しない」ような極端な物語構造を指しています。この用語は、プロットの説得力に関する議論において現在も用いられることがあります。

デーモン・ナイトのSF界における多岐にわたる功績は高く評価されています。1994年にはSFWAから生涯の功績を称えるグランド・マスター賞が贈られ、彼が2002年に亡くなった後、この賞は「デーモン・ナイト記念グランド・マスター賞」と改称され、彼の名前と共にSF界の偉大な貢献者を称える賞として引き継がれています。作家、批評家、編集者、そしてSFコミュニティの組織者として、ナイトは現代SFの基礎を築き、その多様な発展を促した重要人物と言えるでしょう。

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