ワールシュタットの戦い

レグニツァの戦い（ワールシュタットの戦い）：1241年、ヨーロッパを震撼させた東方の嵐

1241年4月9日、ポーランド西部のレグニツァ（ドイツ名：リーグニッツ）で、ヨーロッパ連合軍とモンゴル帝国軍が激突しました。この戦闘は、西欧世界に衝撃を与えたモンゴル帝国のヨーロッパ侵攻における重要な出来事であり、「レグニツァの戦い」または「ワールシュタットの戦い」（「戦場」を意味する中高ドイツ語）として知られています。

モンゴルのヨーロッパ侵攻：東からの脅威

背景には、1235年にモンゴル帝国第2代皇帝オゴデイによって決定された大規模な西征があります。既に中央アジアのホラズム帝国を征服し、黒海沿岸まで勢力を拡大していたモンゴル軍は、ジョチ家のバトゥを総大将に、5万の精鋭兵と2万の徴用兵、さらに漢族やペルシア人の専門兵からなる大軍を編成しました。

バトゥ率いるモンゴル軍は、キプチャク草原やルーシ諸国を次々と征服した後、1241年3月、ハンガリー王国に侵攻を開始します。巧みな戦略によってハンガリー軍を撃破し、勢いを増したモンゴル軍は、その後ポーランドへと侵攻を開始しました。ポーランド領内では、ルブリンやサンドミェシュなどが略奪され、クラクフ侯ボレスワフ5世はクラクフを放棄してモラヴィアへと逃れました。クラクフはモンゴル軍によって焼き払われ、その後シロンスク地方へと侵攻が拡大します。

レグニツァでの激突：連合軍とモンゴルの対決

シロンスク公ヘンリク2世は、各地の諸侯を糾合し、レグニツァにボヘミア軍との合流を待って、モンゴル軍に対抗しようとしました。連合軍は、ドイツ騎士団やテンプル騎士団、民兵、徴用兵などから構成され、総勢2万5千人程度と推定されています。一方、モンゴル軍の兵力は約2万人でした。

戦闘は、ヨーロッパ騎士の伝統的な戦術である敵陣への突撃から始まりました。連合軍の先鋒騎士たちは、モンゴルの軽装騎兵を蹴散らしますが、モンゴル軍は巧みな陽動と騎射を用いて連合軍を混乱に陥れます。特に、中央の軽装騎兵の偽装退却によって、連合軍主力である騎士団を誘い込み、両翼からの集中攻撃を受けました。さらに、煙幕を使って歩兵と騎士団を分断し、完全に混乱した連合軍を、モンゴルの重装騎兵が圧倒しました。結果、連合軍は壊滅的な敗北を喫し、ヘンリク2世も戦死しました。

戦いの影響：ヨーロッパへの衝撃波

レグニツァの戦いは、モンゴル軍のヨーロッパ侵攻に対する大きな打撃となりました。ヘンリク2世の死はシロンスク地方の混乱を招き、ポーランドの統一は遠のきました。この戦闘の後も、モンゴル軍はハンガリー軍をモヒの戦いで撃破するなど、東欧各地で勝利を収め、ウィーン近郊まで進出しました。しかし、オゴデイ皇帝の急死によって、モンゴル軍は撤退を余儀なくされます。

レグニツァの戦いは、ヨーロッパにモンゴルの脅威と軍事力の凄まじさを知らしめ、大きな衝撃を与えました。モンゴル軍はその後、ヨーロッパ全土を征服するわけではありませんでしたが、この戦いはヨーロッパ中世の歴史における重要な転換点となりました。モンゴルの騎兵戦術の優位性と、ヨーロッパ軍の戦術的欠陥が改めて浮き彫りになった戦いでもありました。この戦いを契機に、ヨーロッパ諸国は東方からの脅威を認識し、防衛体制の強化を迫られることになったのです。

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