タラス河畔の戦い

タラス河畔の戦い：中央アジアの覇権をかけた激戦

タラス河畔の戦いは、751年に中央アジアのタラス地方（現在のキルギス）で、唐とアッバース朝の間で行われた戦いです。この戦いは、中央アジアの覇権を巡る重要な決戦であり、その後の歴史に大きな影響を与えました。また、この戦いがきっかけとなり、中国式の製紙法が西方に伝わったとも言われています。

戦闘に至るまでの背景

750年、唐の将軍である高仙芝は、安西節度使として西域（東トルキスタン）に駐屯していました。彼は西のソグディアナ（西トルキスタン）に圧力をかけ、シャーシュ（石国、現在のタシュケント）の王子は、イスラム勢力に支援を要請しました。

これに応じたのが、アッバース朝のホラーサーン総督アブー・ムスリムです。彼は部下のズィヤード・イブン・サーリフを派遣しました。一方、唐軍は、漢人と土着の兵士からなる3万（あるいは10万人）の軍勢で、高仙芝に率いられてタラス城に入りました。

戦闘の勃発

751年7月、アッバース朝軍と唐軍は、天山山脈西北麓のタラス河畔で激突しました。当初、唐軍は優勢でしたが、戦いの最中に、唐軍に加わっていた遊牧民カルルクがアッバース朝軍に寝返ったため、戦況は一変しました。

唐軍は壊滅的な打撃を受け、多くの兵士が戦死したり捕虜となりました。高仙芝自身は、部下の李嗣業が兵を率いて突破口を開いたことで撤退に成功しましたが、唐軍の被害は甚大でした。アッバース朝側の記録によれば、唐軍の死者は5万人、捕虜は2万人に及んだとされています。

戦いの影響

この戦いの結果、中央アジアにおけるイスラム勢力の安定的な支配が確立しました。ソグド人やテュルク系諸民族の間にはイスラム教が広まり、この地域はイスラム文化圏の一部となりました。

唐の勢力はタリム盆地に限定されることとなり、その後の安史の乱で、弱体化した唐は、かつての敵国であったアッバース朝から援軍を送られるほどでした。高仙芝と李嗣業は、安史の乱で活躍しますが、両者とも非業の死を遂げました。

また、10世紀の文献には、中国人の捕虜の中に製紙職人がおり、サマルカンドで製紙工場が開かれて、製紙法がイスラム世界に伝わったという記録が残されています。しかし、中東には古代よりパピルスによる製紙法が存在し、8世紀以前に亜麻などによる製紙法がキルギス地方に存在したという考古学的な発見もあることから、この説には疑問も呈されています。

関連人物

高仙芝: 唐の将軍。タラス河畔の戦いを指揮した。
李嗣業: 唐の将軍。高仙芝の部下として活躍した。
アブー・ムスリム: アッバース朝のホラーサーン総督。この戦いを指揮した。
ズィヤード・イブン・サーリフ: アッバース朝の将軍。アッバース朝軍を率いて唐軍と戦った。
蔡倫: 製紙法を改良し、紙の普及に貢献した人物。タラス河畔の戦いとは直接的な関係はない。
杜環: この戦いで捕虜となり、当時のイスラム社会の記録を残したとされる人物。

まとめ

タラス河畔の戦いは、中央アジアの歴史において重要な転換点となりました。唐の勢力は後退し、イスラム勢力が拡大しました。また、この戦いをきっかけに、製紙法が西へと伝わった可能性も指摘されていますが、その点については諸説あります。この戦いは、文化交流という点でも重要な意味を持っています。

参考文献

山田信夫編『東西文明の交流2 ペルシアと唐』（平凡社、1971年）
前嶋信次著「タラス戰考：序章」『史学』31巻 (1/2/3/4), p657-691, 1958年
前嶋信次著「タラス戰考：本章」『史学』 32巻1号,1959年

関連項目

蔡倫
杜環
小前亮著『天涯の戦旗 タラス河畔の戦い』

外部リンク

* タラス川の戦い - コトバンク

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