トガチの乱

トガチの乱の背景と経過

トガチの乱は、元朝の皇族であるコシラを中心とした反乱が、延祐4年（1317年）に甘粛・陝西一帯で起こったものです。この叛乱は、カイシャン家とアユルバルワダ家との間の権力争いから生じた内乱の一環として位置づけられています。主にブヤント・カアン政権に対抗してコシラを擁立したトガチ丞相が焦点となりました。

背景

トガチの乱は、主に二つの要因から発生しました。まず一つは、帝位を巡るカイシャン家とアユルバルワダ家の対立です。この対立は、1307年のオルジェイトゥ・カアンの死後の政争にさかのぼります。オルジェイトゥ・カアンは病弱で政治に参加せず、実権を持っていたのは皇后のブルガンでした。オルジェイトゥの死後、ブルガンは親族のアナンダを擁立しようとしましたが、カイシャンとアユルバルワダは政争の中で権力を握りました。アユルバルワダがクーデターを起こし、カイシャンと共に政権を掌握する流れが形成されました。しかし、カイシャンが自らの地位を宣言した後、高い評価を受けたアユルバルワダの功績も無視することはできず、彼も皇太子となりました。この権力争いは、トガチの乱を呼び寄せる背景となりました。

次に、中央アジアにおける大元ウルスとチャガタイ・ウルスの対立です。13世紀にはカイドゥがオゴデイ家を傘下に置き、大元ウルスから独立した王権を築いていました。クビライの死後、カイドゥが再び大元ウルスに攻勢をかけますが、カイシャンが彼に立ち向かい、結果として中央アジアの権力が再編されました。この中で形成されたカイシャンとチャガタイ勢力の友好関係も、トガチの乱発生の前提を作り出しました。

経過

トガチの乱の直接的な引き金となる出来事は、アユルバルワダによる政権の大規模な粛正です。1311年、クルク・カアンの死後、アユルバルワダは即座に彼の側近やカイシャン派の有力者を排除し、新政権を立ち上げました。この動きは僅かに数年で、カイシャンの遺児であるコシラに対する弾圧へと向かいました。並行して、コシラは雲南に追放され、事実上の流刑となります。このままではアユルバルワダ政権が完全に安定するかに見えました。

しかし、コシラの支持者たちが集まり、延安において「関陝の変」が起こります。これはコシラを擁立しようとしたアスカンと彼の支持者たちによるクーデターでしたが、計画は裏切りによって挫折し、アスカンは虐殺され、その脅威を除去されました。むしろ、コシラはブヤント・カアン政権から逃れ、チャガタイ勢力に接触し、彼らの支持を得ることで新たな力を築くことに成功しました。

その後、コシラ派はトガチを中心に反抗し、彼を擁立する大元ウルス軍団も加わって、アユルバルワダ政権への抗議行動が展開されました。これが「トガチの乱」と呼ばれる出来事に繋がります。乱の初期段階では、コシラに付き従うヒトたちが急速に勢力を拡大しましたが、ブヤント・カアン政権は反撃に出ます。困難な状況を経て、トガチ丞相が反乱を展開しました。この乱は約1年ほど続きましたが、最終的には大元ウルスの将軍たちにより鎮圧されてしまいます。

乱後の影響

トガチの乱の鎮圧後も、コシラは中立の状態が続き、長い亡命生活を余儀なくされます。彼はなるべく多くの支持者を築く努力を重ねながら情勢を見守りました。最終的には、イェスン・テムル政権が誕生するころ、コシラは安定した友好関係を確立しつつありました。しかし、その後背信の契機として回帰してきたエル・テムルの背信行為により、コシラ自身は再び不当な様々な弾圧を受けることになりました。

トガチの乱は、単なる内乱に留まらず、元朝期における権力闘争や内部分裂の構造を如実に示す出来事であり、後の歴史的経緯を見据える上での重要なターニングポイントと位置づけられるでしょう。

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